ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

旅の途中で見える"世界"ー舞台「キノの旅-the Beautiful World-」キノステ 感想

すっかり暑くなってしまったけど、皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は怒涛の推しの舞台出演月間数ヶ月が終わって楽しかったな~と余韻に浸っているけど、なんと来月になればまた推しの舞台がある。すごく楽しみだけど、上半期ほぼ休み無しだったな。オタクも休み無しだけど、推しはそれ以上に休み無しだと思う。お疲れさまです。

今回はそんな推しの出演作品で、丁度先日幕が下りた作品の感想を書き留めておきたいと思う。キノステこと、舞台「キノの旅-the Beautiful World-」の話である。

 

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3月の推しの出演作品の開幕直前に、舞台情報が解禁された。確かその日の仕事終わりにスマホを開いて一番最初に飛び込んできたのがその情報だった。作品名を見て思わずエッ!?と声を上げそうになった。

それは自分が昔原作を読んでいた作品であり、それ以上に、自分が長年好きなイラストレーターさん(黒星紅白先生)が挿絵を担当している作品だった。(知った切っ掛けはサモンナイトの方。) 小説を読む時間が取れず原作を読んでいたのは随分前だが(アニメは見てた)、担当の作家さんの絵はずっと好きで、画集が出れば買い、作品展があれば足を運んでいた。(去年の作品展も両方見に行った。)

なので舞台のビジュアルが発表されて、基本はその方の描いているキャラクターのビジュアルに寄せられていて(一部舞台版アレンジのキャラクターも勿論いたけど)、すごく驚きつつすごく嬉しかったのを覚えている。私は今まで元々原作がめちゃくちゃ好きな作品に推しが出演したり、自分の好きなキャラクターを推しが演じたりするということがなかったので、こうした形で自分が好きなものを推しが演じることになって、こんなにも説明できない嬉しさで満たされるんだなぁと思ったりした。

ただ、キノや師匠を男性が演じるということ、エルメスや陸を人が演じるということで、どのような見せ方や雰囲気になるのか若干不安はあった。でも開幕前のインタビューを拝読して、制作側が"舞台として上演する意味"をすごくじっくり考えて作ってくださっていることが伝わってきたから、そこまで心配はしていなくて、むしろどうなるのだろう!というワクワクのほうが強かった。

 

予定がついたので全公演劇場で観劇をしたのだけど、実際に観てみて、様々な他作品を観てきた中でもここ3,4年で一番終わってしまうのを名残惜しく感じた作品だった*1。そのくらい素敵な作品だった。正直、あと10公演は観たかった。

ここからは内容のネタバレももりもりと書いていくのでご注意を。また、毎度のことながら私の推しが誰なのかは特に明示せずに進めるけど、見ている時間が長い分言及に偏りがあるとは思うのでご了承を。(遡ってもらったら即バレだとは思うけど)

 

初日を観劇した時、冒頭の「森の中で」のシーンでのキノとエルメスのやり取りの空気感がすごく絶妙で、原作の雰囲気をよく表していておっ、と思った。櫻井さんのキノと辻󠄀さんのエルメスの話し方やセリフ回しが私の中でのイメージに一致してたのもあって、この作品の大部分を占める2人の対話シーンはどれもすごく好きだった。相棒だけどある意味ドライな部分もある感じがよく出ていたというか。(きっちり初めと終わりでbパート→aパートになってたのも良かった) このシーン、いろんな解釈が出来るこの物語のある意味核になる部分だと思うので、ピックアップしてくれたのすごく良いなと思った。

やっぱり個人的に一番想像がつかなかったのが普段のエルメスの佇まいの表現だったんだけど、キノがエルメスを支えるように後ろから歩くのを見てなるほど~と思ったあと、キノがエルメスを停める動作とか、手で押している時にちゃんとモトラドの重量を感じる歩き方とかを見て、すごくモトラドに見えた。極めつけがエルメスに跨って発車する時の反動とキノのコートのはためき。もうモトラドにしか見えん。見立ての力って無限大だな~と思った。人を殺すことができる国の冒頭で男に絡まれた時、振り切るように発車する様子がよく分かった。身長差があるのもバランスが取れていて良かった。

あと、舞台セットにあった照明を当てると裏が見えるシースルーの壁、あれがあるから映像の演出がすごく馴染んで見えて、キノとエルメスが長距離を走っている感じを見ていて体感出来た!他にも師匠の車とか、回想的な部分とか、あの壁のおかげで限られた舞台上で色んなものがらしく見えて天才!と思った。

逆に、キノが山盛りクレープを食べるシーンでエルメスがキノにちょっかいを出すシーンとか、コロシアムで「殺されない程度にね」って銃を撃つような素振りをする所とかは舞台ならではな演出だと思うけど、なんかエルメスならやりそうだな~という気がしてすごく自然だった。辻󠄀さんと演出の山本さんの解釈、めちゃ良い。クレープのシーン、最初はお腹つつくくらいだったのに、段々顎をがくがくしたり、肩揺らしたり過激になってきて、エルメス結構鬼だなと思った。笑

 

そして、キノを男性が演じるということについては、櫻井さんは女性的な役もよく演じられている役者さんなのでそんなに心配はしてなかったとはいえ、正直どんな風になるんだろうかと思っていた部分もあったので、観劇してみたら想像以上にイメージぴったりで良かった。普段の少し澄ました表情や佇まいとか、銃撃戦の時には的確に弾丸を撃ち込む強くてクールな様子を見せつつ、ふとした時に自然と出るお茶目な雰囲気や話し方と可愛い所でしっかり「あ、年頃の女の子なんだな~」と思わせてくれて、「少年に間違われる女の子」に説得力があってとても良かった。

私は「歴史のある国」の時にエルメスに師匠の話をしている時のお茶目で楽しげな喋り方やセリフ回しがすごく好きだった。あと「コロシアム」の終わりにシズに対して「知らない男の人にはついていっちゃいけないと言われてますので、」と告げる所のちょっとふふんとした様子の表情が可愛かった。その前の陸に釘付けになって目がキラキラしている時の表情はもっと可愛かった。モフモフする所はどんどん過激になるので笑わせてもらった。シズがかなり苦笑気味なのも良かった。陸のビジュアルが出た時かなり話題になってたけど、元々喋るでかい犬なので、まあこうなるよね!と思ったし、舞台らしくてよかったと思う。エルメスとの言い合いもいい味出してた。笑 (21の昼だったかな?1回だけ陸とめちゃくちゃ遊んでる時があってレアだった。)

逆に「コロシアム」の戦闘のキノの身のこなしはすごく軽やかで、特に対シズ戦の時なんかすごく格好良かったな~と思う。戦いを楽しみながらも冷めた目で国の様子を見ているのが話し方からよく伝わってきた。国王に向けて森の人を構える時の鋭い瞳とかとっても良かった。そういえばアドリブの手裏剣名人、毎回どんどんプロフィールが明らかになっていくの笑った。キノは基本髪型にしか興味ないのも笑った。(加藤さんのギャップよ)

男性が女性を演じる、ということでは加藤さん演じる師匠もそうだったけど、セリフ回しがすごく上手な方で、身のこなしや銃器を扱う演技もすごく上手かったので、クールだけど大胆な部分やそこに付随するカリスマ性がすごくよく伝わってきた。パースエイダーをくるくる回すのカッコよかったな。でも見ていて本当にシンプルに敵に回したくない人だなぁと改めて思ったりもした。笑

 

今回の舞台でピックアップされた国と話はかなり色がバラバラだったけど、上手く繋がれていたので「旅」という雰囲気がすごく伝わってきたなぁと思う。(あと、昔途中までしか読んでいない&アニメは見た私のような者でも知っているエピソードだったのもありがたかったりもした。笑)

演出の山本さんがインタビューで役者さんたちに「ストーリーとは別のところにある、その人の”人生”を作ってほしい」とお願いしたとお話されていたけど、観劇して、確かにサブの登場人物がただの舞台上の引き立て役として存在しているのではなく、一人ひとりが住んでいる自分の”国”の文化を背負って生きている人間というのがすごく伝わってきた。だからなのか2時間程の上演時間だし、誰かの心情が細かく吐露されるわけではないのに、すごく濃いな~と思ったし、物語の背景の解像度がすごく高い舞台だなぁと思った。それってこの作品ならではだなと感じる。

あと、登場する国の様子やそこに住む人の在り方や物事を俯瞰してそのまま描くというよりはキノや、師匠や、ウィルなどの視線を通した描き方を踏襲してくださっていたので、一人ひとり、世界の見え方感じ方は違うのだなぁという一番重要なポイントのひとつをしっかり提示してくれていて、改めてそれを実感できたのが良いなぁと思った。

あともう一点、優しい国の終盤で火砕流に埋もれていく国を見ている時にキノとエルメスの感じ方が明らかに違うと思わされる部分があって、人と機械でも見えるものが違うというのをはっきり感じさせてくれたし、そこをお二人がわかりやすく演じてくれてるのが良かった。人によって見える景色や感じ方が異なるということがそのまま「夕日の中で」のウィルの語りに繋がっていくのも上手いな~と思った。構成の仕方がすごく上手かった。

「優しい国」の話はラストを知っていたから初日から終盤にかけて観ていてどんどん辛くなったけど、キノが崩れ落ちて呆然として、手紙を読んで泣きそうになりながらも自分の気持を話してどうにもならない気持ちを噛み締めている表情も、そこから少し寂しげに微笑んで去っていく表情も気持ちが伝わってきてすごくグッと来た。

 

あと、主題歌、めちゃくちゃ良かった。作品の明るくもなく、暗くもない、どこかしっとりしているのにドライな部分もある中間値な雰囲気にぴったりマッチしていて叙情的で曲も歌詞も歌声もすごく素敵だった。舞台自体の円盤化は難しいのかもしれないけど、主題歌だけでも配信してほしい~と強く思っている。アンケートにめちゃくちゃ書いた。

 

毎度のことながら長くなってしまったけど、内容の感想としてはそんなところ。あと、千秋楽の最後にキノが「キノの旅はこれからも続きます。またどこかでお会いしましょう」と告げてエルメスと走り去っていく演出があったんだけど、ある意味終わりの見えない物語(原作が終わっていないことも含めて)だと思うので、終幕を感じさせない台詞で締めて走り去ってくれるのはすごく嬉しかった。旅は今もどこかで続いているんだなぁという気持ちにさせてくれるので。

久しぶりに読んでない分も含めて原作も読みたくなった。知らぬ間にカバーが一新されてて驚いた……(絵は結構見たことあるやつだ)

読んでくれて気になった人に是非配信で見て!と言いたい所なんだけど、配信が丁度昨日終わってしまったので、見て!!と言えないのが悔しい所……。円盤、再配信いつまでも待ってるし、是非同じキャストで舞台版第2弾も観たいな!

 

心待ちにしながら、この旅を思い返すことにする。

 

追記

丁度Wカーテンコールでメイン2人がお辞儀して帰るところの目の前の最前だった日があったんだけど、お辞儀して2人でいそいそと捌けていくのが可愛かった。

全日キャスト挨拶なしだったのは演出家さんのこだわりなのかなぁという感じだった。世界観に浸ってそのまま帰れて良かったと思う。

*1:その前に終わるのが名残惜しいな、と思ったのはこの作品だったな~と思う。