ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

私が読んでほしい漫画を紹介するだけの記事

私は漫画を読むのが好きだが、何故なのか好みが少しマイナーな作品に集中しているらしく、漫画が好きな友人にさえ「○○の好きな漫画は知らないものが多い…」と言われたことがある。勿論その友人がたまたま知らない作品が多かったのもあるかもしれないが、他の友人にも「知らない」と言われることが度々あり、面白いのに勿体無いな、と思うことが度々ある。

好みは人それぞれなので押し付けるつもりはないが、折角だから知らない人にも読んでほしいなぁと思う気持ちはあるので、今回ただただ私の好きな漫画をいくつか紹介するだけの記事を書くことにした。本当に私の漫画をただただ紹介するので、もし興味を持った作品があったら是非読んでみてほしいです。私が喜ぶ(?)

私はBLやGLと冠された作品も読むけど、今回はより広く読んでもらえそうな一般向けの(一般向けという言葉もどうなんだとは思うけど)作品に絞って紹介したいと思う。

※もしかするとマイナーという表現にむむっと思う方もいるかもしれないけど、世間的に相当知られているメジャー作品の単なる対義語として捉えていただければと思います。

 

○このかけがえのない地獄/アッチあい

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表題の作品を含む5篇の作品からなる短編集。メインになる登場人物はだいたい女の子なんだけど、表情一つひとつにその子の人となりが現れていてすごく魅力的だし、絵柄もすごく可愛い。(私も表紙の絵に惹かれて手にとった部分が大きい。)

だけど全員が全員とてもくせ者。

お話自体も、日常にありそうな話だったり、ホラー風味だったり、ラブコメだったりとバラエティに富んでいるけど、その全てが所謂「こういう話ってこうだよね」の軸から外れて"捻くれて"いて、それを回していく女の子たちもその分くせ者揃いでぶっ飛んでおり、良い意味で裏切られるのがすごく面白いな、と思った。しかも上に書いたとおりすごく可愛い絵柄でそれをやってのけるので、そのギャップも魅力的。最近割とあるショッキングな話を可愛い絵でやる~というのとは全く違って、可愛い絵柄がちょっと捻くれた話に融合しているというか、だからこそ盛り上がっているような部分が強い作品だな、と思った。(逆に男の子の登場人物は主人公含めて割とみんな「フツー」っぽくて、女の子に巻き込まれて染まっていくのも面白い。ある意味ファム・ファタル的な?)

私が一番好きなのは表題作の「このかけがえのない地獄」。敢えて一言で表すとするなら、「現実の中で考えうる一番のメタ魔法少女」的な話なんだけど、そのメタな部分が(かなり物理的なのに)まるで"魔法"のように働いて事件の解決や主人公の自信に繋がっていくのが暖かいな、と思う。

この作者さんは今、人間になりたい猫と結婚する男の子のラブコメ「愛しの国玉」を連載されていて、こちらも大分捻くれているけど、可愛くて優しくてちょっと切なくて、色んな感情になれる話でおすすめ。無料で読める話もあるので是非。

comic-walker.com

 

○グリーンフィンガーズの箱庭/穂坂きなみ

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マトグロッソというWebメディアで連載中の作品。アルバイト先の閉店に伴い、新しいアルバイトを店長に紹介される大学生の旭。そのアルバイトは植物学者の草薙先生の膨大な研究対象の植物の世話をする手伝い。しかし、その先生の屋敷に向かう途中で何故か何度も森の中で迷子になってしまう旭。なんとか辿り着くものの、その先生は"変わった"体質で……というのが物語の導入。どう"変わって"いるのかは敢えて振れないけど、表紙を見て察する方もいるのではないかと思う。

基本的には旭くんと草薙先生+ゲストキャラで架空の植物にまつわる物語が展開されていくのだけど、この架空の植物の設定が凝りに凝っていて、どれもファンタジーな性質を付与されているのにもしかすると現実に存在するのではないか…と思わせられるのが面白い。(実は旭くんが迷ったのも架空の植物が関係していたり。)ゲストキャラは割とみんな初めは何かを隠した部分を持った様子で描かれていて、この架空の植物の性質を草薙先生が説明することで謎解きがされていくので、日常的ファンタジーに加えてミステリーも楽しむことが出来る。しかも、その謎を解き明かされたキャラクターの心情描写がすごく丁寧で、少し切ない話も多いのでその分グッと来る箇所も多く、全体的に色んな要素がバランス良くまとまっていて、一粒で二度も三度も美味しい、贅沢な作品だな、と思う。

私が特に好きなのは第2話。旭の元アルバイト先の店長のおばあちゃんと草薙先生の関係や、彼が店長に渡した"ある植物"の種の話がメインになるのだけど、その種にまつわる店長の過去の話がとても切なくていじらしくて、台詞の一つひとつがとても美しいな~と感じてすごく好き。「エス」的な百合が好きな方には是非読んでほしいお話。(単行本の描き下ろしも合わせて読んでほしい。)

この作品は現在1巻が単行本で販売されているのだけど、植物図鑑のような表紙絵に合わせてさらっとした質感の紙がカバーに選ばれていて、帯もゴールドプリントで高級感があり、本当に植物図鑑みたいで装丁に拘りが感じられるのも好きポイントのひとつ。勿論Webでも読めるし、絶賛連載中なので、興味があればこちらから是非。

matogrosso.jp

 

○えびがわ町の妖怪カフェ/上田信舟

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元々「女神異聞録ペルソナ」のコミカライズで好きになって、オリジナル作品中心にずっと読んでいる作者さんの作品。上田先生はコミカライズも含めオカルト要素が強い作品が多く、現実が段々侵食されていくサスペンスであったり、オカルト・ファンタジーであったりとおどろおどろしさのある作品が多い。でもこの作品はオカルト要素はありつつ暖かい日常が舞台の作品なので、始まった時にこういう作品も描かれるんだ!?と驚いたが、読んだらすごく面白くて、お気に入りの作品の一つになった。

主人公のまな(小学3年生)は幽霊や妖怪が見えてしまう体質であり、それに起因して両親と少し折り合いが悪く、夏休みの間だけ岐阜の親戚に預けられることになる。その親戚・佐吉おじさんは、気難しそうな雰囲気だけど実は妖怪ばかりが訪れるカフェを営んでおり、妖怪の見えるまなは様々な妖怪と触れ合うことで様々なことを学び、成長していく…という話。

描かれる妖怪たちは可愛らしく愛嬌のあるキャラクターが多く、まなとの触れ合いで彼らの「食べたいもの」の願いが明らかになり、それをおじさんの料理で叶えていくことがメインの話になるのだけど、この料理が本当に美味しそうに描かれていて、作中で軽く作り方も紹介されているので思わず作りたくなっちゃう。上田先生、こんなに料理描写に長けた方だったなんて…と驚いたのを覚えている。また、それを通して妖怪たちの優しい思いや切ない過去が語られたり、同時に佐吉おじさんの過去が明かされていったりと、少ししんみりしつつ暖かな気持ちになれる所もすごく好きな点である。

岐阜での生活を通して最後にまなが両親との関係をどう変えていくのか、また気難しそうだった佐吉おじさんがまなとの暮らしでどのように変わっていくのかにも是非注目して読んでほしい。

この作品はすでに全6巻で完結済み。出版社のページなどで冒頭が読めるようなので、興味があれば是非試し読みを。(ちなみに作者さんは現在聖闘士星矢のスピンオフを連載している。)

www.hakusensha.co.jp

 

○サラウンド/紺津名子

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トーチwebというwebメディアで連載中の作品。確かツイッターで見かけたのが切っ掛けで読んでみたら面白くて、単行本が出たら購入している作品。(ツイッターでの漫画との出会いって今の時代すごく重要だな、と思う。)

一言で説明するなら「戸田・田島・山口の仲良し男子高校生3人組の日常」という簡素な説明になってしまうのだけど、作者さんはこの"日常"の切り取り方がすごく上手で、彼らの会話や動作など、本当に何気なくて、世界のそこかしこで行われていそうなやり取りなのに、すごく輝いて見える。逆に世界のそこかしこにありそうな雰囲気を非常に"自然に"切り出しているからこそ、自分が高校生だった頃は気づかなかった何気ない日常の温かさとかきらめきがグッと伝わってきて、すごく愛しくなる、そんな作品だなと思う。

日常描写がメインなので必然的に会話劇が多いのだけど、今思うと独特な言い回しとか話し方とかが出てきても「あ~男子高校生ってこういう感じなの、わかる!」と思わず頷いてしまう部分もあったり。"日常"なので必然的に恋の話も出てくるのだけど、ラブコメではないのでダイナミックな進展はなく、少しずつ話す描写が増えたり、心理描写が増えたりと本当に日常で起こっていく気持ちの変化を繊細に拾っているのも、他の漫画だとなかなか読めない描写なので好きポイント。私は山口くんが一番好きなのだけど、彼がちょっと気になる女の子との話が少しずつ膨らんできていて、続きがすごく気になっている。

また、メインは男子高校生3人組だけど、彼らのひとつ下の学年の妹や幼馴染の女の子たちの仲良し3人組の話も時々描かれていて、彼女たちの"日常"もとても可愛くて友達思いで愛しいので、すごく好き。私の推しキャラはみどりちゃんです。

今は単行本が2巻まで出ているのだけど、キャラクターが巻数を支える背表紙、何気ない会話とチャイムで埋まる"高校"を視覚化したような裏表紙、薄紙の扉絵など、細かな部分に作品の雰囲気を感じられる丁寧な装丁もすごく素敵だと思う。

コミックス収録分は基本的には非公開になっているけど、序盤はWebでも読めるようなので、是非。

to-ti.in

 

○スーパーベイビー/丸顔めめ

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コミックトレイルというwebメディアで連載中の作品。九州から上京し、町田のショッピングセンターのギャル服店で働く黒ギャルの玉緒。ある日苦手な鳥に襲われた所を(結果的に)助けてくれた下のスーパーで働く地味な作家志望の山田楽丸に助けられ、一目惚れし、猛アタックを始める。初めは「ギャルに追われてる」と怖がる楽丸だけど、良いと思ったもの・すごいと思ったことを素直に褒め、嫌なことをしてしまったと気づいたらきちんと謝れる玉緒の素直さに惹かれて自分からも告白をし、カップルになる。

その後はこの二人の恋模様が描かれていくのだけど、初めは玉緒の親友・さわちゃんが作中で触れるくらい見た目的に「ちぐはぐ」に見える二人。だけど真面目に真摯に玉緒と向き合う楽丸と彼の言葉や行動を優しく迎え入れる玉緒は、意外にも"ぴったり"合っていって、描かれているその過程がすごく愛おしくて好き。物語の中で楽丸の将来の不安や玉緒の過去のトラウマなども描かれるのだけど、それをお互いに今まで生きてきた環境が違うからこそ出てくる言葉を投げかけることで救うというか、解決に導いていく描写がある。この点にはただちぐはぐな恋愛劇ではない温かさがあって、自分と違うからこそ新しい視点を共有出来て、前に進めることもあるんだなぁと改めて気付かされる思いだったりした。

玉緒はギャルらしい独特の語調で喋るのが可愛いんだけど、その中でも楽丸のことを「らくぴ」と呼ぶのが一番可愛くて好き。今単行本は4巻まで発売中で、Webメディアなので例のごとく冒頭はWebで読むことが出来るので、気になったら是非。

comic-trail.com

 

 

 

○ぼくのワンピース/山田睦月(原作:菅野彰)
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漫画雑誌「Wings」で連載されていた作品。私はWingsを購読しているので1話から本誌で読んでいたんだけど、初めて読んだ時から本当に「面白い!」と思った作品だった。

心理学科の大学生・等は「女になりたいわけでも男が好きなわけでもない、だけどただ綺麗なワンピースを着たい」とずっと思っており、うっかりワンピースを手に取った所をクラスメイトの真人に見られてしまう。動揺して倒れそうな等を家で休ませた真人は

「自分は定められたジェンダー規範にどれも当てはまらない、俺は一体何者なんだろう」と問う等に「着たいなら着ればいい、おまえはおまえだろう」と答え、姉のワンピースを等に着させてくれる。それから度々等は真人の部屋でワンピースを着させてもらい、交流を深める中で、達観した真人の言葉を受けて他者と違う自分を認められない"迷子"な自分と少しずつ向き合っていく。他にも様々な形で"迷子"な人物が登場し、彼らもまた真人、そして等との交流の中で自分を認めていく…というのが本筋のお話。しかし真人のその達観した性格にも実は理由があり…それ故に冒頭は衝撃的な場面から始まるのだけど、敢えて触れないので、是非読んで確かめてほしいと思う。

「自分が何なのかわからない」「人と違うのが怖いから、何とか名前をつけて型にはめたい」という等の思いは、現実でも無意識のうちに抱えている人の多い願望なのではないかと思う。この作品はそんな願望に対して真っ直ぐで、嘘のない真人の言葉で「自分は自分で良いだろ」というのを語りかけてくる作品だなと思う。そしてその語りかけを受けて少しだけ歩みを進めた等が、今度は他の人に語りかけて少しだけ相手の背中を押す場面もあり、真人の言葉がすごく真に迫るものであるということも間接的に上手く描かれている。また、ジェンダーアイデンティティに関することから世間体裁、名前、文化など本当に様々な意味で"迷子"な登場人物が悩み、自分と向き合うシーンが出てくるので、是非現代を生きる人に広く読んでほしい作品だと思う。

哲学的な問答も多く、流れるような台詞もすごく美しいので、注目してほしいポイント。上下巻で完結済みだけど、公式サイトで試し読みが出来るようなので是非。同じ作家さんのコンビの「デコトラの夜」もおすすめ。

www.shinshokan.co.jp

 

以上、6作品紹介させていただいたけど、版元や内容的にはバラエティに富んでいても、基本的にはダイナミックさやアツさよりも、じっくりと丁寧に物事が進んでいく様が描いていたり、心の動きや気持ちの変化を細かく詳細に捉えて丁寧に描いていたりする作品が好きなんだな、と改めて実感した。(舞台観劇の時なども、迫力のある殺陣を見るのも好きだけど、心理描写が丁寧な作品だとより一層嬉しいと思うので、漫画に限ったことではないのかもしれない。)

あと私は和山やま先生の作品も大好きなので「女の園の星」とかも入れたかったけど、和山先生の漫画は今やマイナー作品ではないので今回は割愛した。

 

気になる作品があったら是非読んでみて、感想を教えてほしいです。(強欲)