先日2023年の現場まとめでYOUSAY SONIC2023のことを書いていて、THE KIDDIEを久しぶりに見られたの嬉しかったな~と改めて噛み締めていたら、キディの話がしたくなったので、前から書きたいと思っていた話を書こうと思う。
キディが活動していたのは私が中学生~大学生の頃で、特に好きで聞いていたのは中高生の頃だった。初めてライブに行ったのも中学の卒業前だった。メジャー後期になると曲があまり好きではなくて段々聞かなくなってしまって、ライブにも行かなくなってしまったんだけど、解散前のラストライブに久しぶりに行って、過去の曲が沢山披露されるのを聞きながら昔のことを沢山思い出して、あ~~私は彼らの音楽に支えられて学生生活を送ってきたんだな~~と考えながら泣いたのを今でも覚えている。
私はヴィジュアル系が好きだったけど、どちらかと言えばコテ系よりもポップなバンドを好んで聞いていて、その中でも特に好きだったのがキディだった。見た目はオサレ系かキラキラ系っぽいけど曲は全然違うし、何系?って聞かれると未だに良く分からないけど、カテゴライズしづらい感じも良かったのかもしれない。可愛いビジュアルと親しみやすいポップなサウンドもとても好きだったが、一番好きだったのは歌詞だった。
キディの楽曲の歌詞の多くを担当していたのはボーカルの揺紗だった。私は当時、揺紗の歌詞が大好きだった。そして、未だにこの人以上の歌詞を書くアーティストを私は知らない。*1
揺紗の歌詞には、感性や言葉の選び方に誰にも真似できない瑞々しさがあって、若さゆえの未熟さをそのままパッケージングしたようなリアリティがある。それでいて、そのリアリティを感じさせるのは決して安っぽい明け透けな言葉ではなく、どちらかと言えば抽象的な、哲学的な言葉を用いた表現であるのが、彼の歌詞の凄さの一つである。直接これと言われている訳ではないのに、抱えている現状や葛藤が想像できてしまう。
また、彼の歌詞には、追体験というよりかは今その場で起きていることを味わっているような、そんな鋭さがある。今聞いても、さっき体験して書いたんですか?と思ってしまうくらいに鮮明な、青さ。だからこそ、キディの曲を初めて聞いた10代の頃、まるで自分のことを言われているようだと衝撃を受けたのであった。
高校はそれなりに楽しかったけど、音楽の話になると友達とはたちまち話が噛み合わなくなり、何となく自分の好きなものを軽んじられている感覚すらあり、虚しさを覚えていた田舎の高校生だった。それでも偶に東京に出てライブに行けば自分と同じものが好きな人がこんなにも居るのだと実感し、いつか卒業してより広いフィールドに出たらもっと自分と考えの合う人に出会えますように、と願っていた自分に、揺紗の歌詞は深く深く刺さった。*2
当時、特に自分の心に刺さったのが「青」の歌詞である。
(※ここからの歌詞の解釈はあくまで私自身での解釈です。)
いろんな困難は付きモンさ 不安がどんどん湧いて渇れそうでも
たのしめればそれでいいじゃんって余裕 見せてよ
『明日はいい日になりますように。』
オヤスミの呪文に込めても 変わらないこと 気付いてるんでしょ駆け出したなら 感じて越えて お節介な過去と未来に、
後悔と期待に 戸惑わないで
狭い世界にいる子供には将来のことは果てしなすぎるし、逆に今の現実は自分の使える手段が少なすぎて、不安もやるせなさも同じくらい感じるものだった。
遠回しに、それは誰にだってあるけど「楽しめればそれで良いんだよ」「待ってるだけじゃ変わんないから、自分のやりたいことやんなよ」と語りかける揺紗の歌詞は、生きるっていうのは自分が楽しむことで、それを実現するのは他でもない自分の行動であると気づかせてくれた。当時の自分は、それならこんな狭い世界は置いておいて、これからやりたいことをしようと、進学先やその後の未来のことを考えたのであった。
この歌詞は新しい世界の捉え方を同じ土俵に立ってそっと聞かせてくれる、良き友のような存在だな、と思っている。
あとは「Prastic Art」の歌詞も好きだった。
飛び込んでく潜る、潜る 螺旋を描くように
群れる足音 鐘の音をとめないで
捩って落とせ 整然と畝る 僕だけの宇宙ヘッドフォンの向こう 嬉しかったんだ また絡み合う夢とリアル
大人になるにつれ広がっていく ギリギリの第 9 話
「捩って落とせ 整然と畝る 僕だけの宇宙」って正に"自分だけの世界"の表現で痺れる。それが誰かの存在でヘッドフォンの外に広がっていく様子の描写に、自分をライブに連れ出してくれた友達の存在とか、東京に出た時の世界が開けた感じとかを重ねて見ていたのかもしれない。
ただ、この歌は世界が開けて大人に近づいたからこそ、物事を素直に捉えられなくなることへの危機感も同時に描かれていて、両面性を自然に描いているのも魅力だと思う。自分の世界が変わっていくことを「第9話」「第10話」「最終話」ってドラマのように描いているのも面白い。キディは子供心を忘れずに常に楽しく音楽をやっていくというようなことをコンセプトにして活動していたこともあり*3、(特に初期は)大人になりきらないことの大切さみたいなメッセージ性が強い歌詞も多いと思う。(実際ライブで揺紗が「大人って本当に嫌だよね~」と発言していたのを聞いたこともある。)
この曲に出てくる「君」は"自分を連れ出した誰か"なのか"自分を変えた自分自身"なのか、どちらとも取れるように思うけど、どちらにせよ自分が自分らしくいるために近くにいてほしい存在として登場しているのかな、と思う。だからこその「大人になっても一緒にいてね」だと思うし。
他には「soar」の歌詞も好きだった。
偽りのない空の無限でさえ もう僕を癒せはしないよ
どうやら背中の羽根は真っすぐに 君に会いたいみたいだ加速していくスピードで 誰も知らない世界へ
両手を広げる街が 囁く声を 道標にして
この空を裏切って 誰も知らない世界へ
どこまでも続く闇を この身に纏い 落ちていくよ「そうさ、今すぐに。」
これは曲のエンディング部分の歌詞で、闇を纏って落ちていくというネガティブな表現に見えるけど、この曲の主人公は「本当の空を君と飛んでみたい」と思いながらも上手くいかない、代わり映えのしない日々を送っていて、だけど諦めたくなくて吹っ切って誰も知らない世界(=どこまでも続く闇)を進んでいくことを選ぶ…という物語なのだと思う。
主人公にとって、代わり映えのしない無限の空を飛ぶよりも、闇の中にあるかもしれない本当の空と君を探しに行く方がはるかに自分らしい人生なのだと気が付いたのかな、と思う。だけどそこに至る葛藤も盛り込まれている所にリアリティを感じる。
大人になると安定とか同調の方が重視されがちだけど、自分の本当にやりたい物事は忘れないように、ということを思い出させてくれる歌詞だな、と思う。学生の頃もこの曲を聞いて、ただつまらない日々を送る大人にはならないようにしたいと考えたのであった。
このように、揺紗の歌詞を心に刻んで学生生活を過ごし、一時期聞かなくなった時期はあったものの、今も好きなバンドの1つとして度々聞いている。大人の年齢になって聞くことで、学生の頃はあまり意味を捉えられていなかったけど、今改めて考えるとこういう意味だったのか!と感銘を受けた曲があった。それが「翼グラフィティ」である。「青」と共に1stシングル「Little SENOBI」としてリリースされた曲だ。(「Little SENOBI」というタイトルがもう最高である。)
歌詞を見ていきたいと思う。
血を染めたナイフを 今度は盾にして
何を守れるなら 素敵な僕たちなんだろう?
邪な平行線 一思いに縦にしてみても
もう信じらんないよ そんなもんだよね
初めて聞いた時、Aメロから突然物騒だな!?と思った記憶がある。笑 でも実際は比喩表現なので、自分を守るのに必死で誰かを傷つけて(=血に染めたナイフ)、また保守に走ることが正しいのか?という問いかけなのかな、と思っている。後の2パラも楽な方を選ぶことが正しいのか?という問いかけなのかな、と。
打ち抜かれた衝動 埋める術を
手の平の上で 探していたんだ oh
けでども僕は僕を 知っていて欲しかったから
心の切っ先で ちっぽけな空を掲げてみたの
モヤモヤしながら何となく保守の姿勢で生きていた時、出会ってしまう。自分の心を揺さぶる存在に。でも子供の自分にはその衝動を埋める術は中々見つからない。ここで出会った存在はきっと"音楽"なんじゃないかな、と思っている。 この「手の平の上で探していた」という表現が若さ故の無力感の表現として上手すぎて惚れ惚れしてしまう。
上手い方法が見つからなくても自分なりに表現したいというガムシャラ感を感じる歌詞がすぐ後に続くのも瑞々しくて…とても好きだ。
夢見がちな方法で ようやくまた手にした現実も
離さないように 大事にしてね
少し飛ばすけど、夢見るみたいに行動していたらとうとうその衝動に追いつく術を見つけるのがこのターンなのかなと思う。音楽だとしたら一緒に奏でる仲間が見つかったとか、素敵な曲が作れた…とか、かもしれない。 「離さないように 大事にしてね」と離れた場所からそっと見守りアドバイスする先輩のような歌詞も、優しくて素敵である。
行き先の未来 取り合って 吐き出して
枷となった定めに 抗っていたんだ oh
突きつけられるのが 拳銃と理想郷 なんてね
残る選択肢は もう大声でただ泣き叫ぶくらいでさ
初めの2パラが少し難しいけど、夢見てたものに近づけたのに、今度はその夢を意識しすぎて考えが凝り固まってしまった、みたいなことの比喩かな?と考えている。
後の2パラは、改めて聞き直した時に一番上手いな~としみじみ思ってしまった箇所である。夢を追うということは、拳銃(=修羅の道を進むこと)か理想郷(=安定して平穏な道を進むこと)のどちらかしか選べない、ということなのだろうと思う。どうにもならなくなったらきっと泣くしかない。揺紗は有名大学を卒業している。安定した職業にも就ける中で、バンド活動をしていくことを決断した時にこういう気持ちだったのではないかな~と想像してしまう。
物によっては2つのことを並行して進めることも出来なくはないけど、何かの切っ掛けで選ばなくてはならない時がやってくることもある。自分にもいつかそういう瞬間があるのかもしれない、と考えさせられる。そのくらいリアリティのある比喩表現だな、と思う。
高く 高く
どこまでも 高く 高く 念いを届けて
唯一無二の 小さな僕の
大きな 大きな 存在証明を 掻き鳴らして
最後のサビである。迷っても悩んでも、自分が夢見て掴んだものを信じて、最終的にはとにかく自分らしく生きろ!というメッセージかな、と思う。「小さな僕の 大きな 大きな 存在証明」という対比はすごく生き生きとした表現だと感じる。抽象的なのにしっかりと様子が心に浮かぶ感じがして。
ここまで揺紗の歌詞の内容面で優れていると思う部分を勝手に語ってきたけど、揺紗の歌詞は言葉遊びもとんでもなく上手い。
「in one sence」の中の星の煌めきを表現するフレーズで「揺らめく時間差 ride on stars」と「閃く時間さ ride on stars」を同じメロディで繰り返すのとか、すごくお洒落だ。
あとは、「CRITICAL ELEVATION」のフレーズ。
衝動先行 心行方知らず 手持ち豚さん
夢の中駆け巡れ 手綱は切ったから
"手持ち無沙汰"と「手持ち豚さん」を掛けるって誰が思いつくんだよ…!?と真剣に考えてしまう。笑 しかも豚さんを駆け巡らせようとする描写と、手持ち無沙汰の退屈凌ぎをしようとする様子が噛み合っていて、上手すぎて恐ろしい(?)
本当に学生時代にこのバンドに出会えて良かったな~と心から思う。間違いなく人生の糧になっていると思うので。今回は歌詞にだけ焦点を当てて記事を書いたけど、曲も耳当たりが良くて聞きやすいのに、面白いサウンドが盛り込まれていてとても良く出来ているので、気になった方は是非聞いてほしい。あとメンバーもみんなオモロいです。メンバーのイベントとかで偶に5人集まって演奏してくれることがあるんだけど、何年間が空いても気の置けない仲間という感じで見ていて安心する。
キディはどうも事務所かレコード会社と決裂して解散したっぽいので、サブスクにもないし、iTunesでもメジャーの時の曲しか取り扱っていないようなので結構試聴ハードルが高いのが本当にもったいないのだけど、何卒……。
「CRITICAL ELEVATION」だけはあったので、貼っておく。
追記
キディの時の揺紗の歌詞って、「君が悲しい時は僕が側にいる」という寄り添いではなく、「君がいないとつまんないよ、だから一緒にいよう」というような引っ張り上げる形の励まし方なのも結構好きだな、と思う。
揺紗は今他のバンドで活動しており、そちらのことはなかなか追えてないので時間を見て触れたいなと思っている。