ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

現実はそれでも続いていくから―WATARoom produce『セーブ・ザ・ダディ』~VIVID CONTACT事件簿~ 今更すぎる感想・雑感など

気付けば新年度だけど、いかがお過ごしでしょうか。

私は推しが昨年からゆったりスケだから、この前久しぶりの出演舞台で久しぶりに全通したり、合間にアイドルのライブとか好きな作品の舞台挨拶で遠征したりしてたら4月になっていた。

その舞台の感想もいずれ書きたいと思っているのだけど、まず先にずっと書こう書こうと思って書けていなかった作品の感想を書きたいと思う。ずっと書こうと思っていたら1年半弱経ってしまったので本当に今更…?なんだけど笑、映像化されていないこともあり、未来の自分が思い返すためにも良かったな~と思った作品のことはまとめておきたいので、書いておきたいと思う。

 

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観劇を始めた頃に良く観に行っていたのが小劇場の演劇だったのもあって、今も劇団や個人制作オリジナルのプロデュース公演なんかを好きで観に行ったりすることがある。

私は推しのお芝居が好きだから、大きな劇場で2.5含む派手な作品に出演してくれるのもすごく嬉しいけど、そういった小劇場の演劇でゴリゴリのストレートのお芝居をする推しも見たいな~と良く考えている。けれども最近特にあまりそういう機会がなくて残念…と思っていた所で発表されたのが『セーブ・ザ・ダディ』への出演だった。

発表された時、個人事務所のプロデュース公演だ!ヤッタ!と喜んだのを覚えている。勿論好みや制作者の腕もあるので小劇場の公演が全て面白い訳ではないけど、ビビコンは推しの事務所の先輩も良く出ていて観たことはないけど知っていたし、あらすじがシンプルに面白そうだったので期待していたら、実際に面白かったので嬉しかった。

 

公演情報を見ている時、柏さんが今作のメインビジュアルにいる女性と同じ格好をして「マリカ」という女性として出演情報を流しているのを見てどういう仕組みだ!?と思ったら、WATARoomは柏さんが所属タレントの全てを"一人で演じている"事務所であり、「マリカ」もその中の1人だということだった。柏さんが演じる「マリカ」というギャルが、他の役を演じる…という二重構造になっている訳である。劇中劇という訳ではなく、現実に地続きの場所にいる「演じられた人」が何かを演じるのを見る…というのは見ていると頭が攪乱させられる不思議な感覚があって、すごく面白い試みだな、と思った。

 

会場は恵比寿エコー劇場。初日に行った時に、ここ来たことあるな!?と思ったけど、何だったかは全く思い出せず…。先着で取ったチケットが1~2列目だったけど、2列目からしっかり段差のある劇場なので、すごく見やすかった。

丁度出展した回の文フリと時期が被ったので…笑、それの準備をしながら6回観劇した。

 

ストーリーは、主人公であるギャルのマリカが大好きなパパ(鎌苅健太さん)とマリカの将来について言い争いをして喧嘩したまま事故で死に別れてしまう所から始まる。実感がわかなくて泣けないマリカを友達のギャルのテンテンが慰めている時、偶々再生したドラマに若い頃俳優をやっていたパパの姿が映る。パパにもう一度会いたいと思いながらいつの間にか眠りに落ちた2人は、目を覚ますと知らない男性と若い頃のパパに出会う。2人は再生したドラマの中に入ってしまったことに気が付き、そのドラマでは最後にパパ(の役)が死んでしまうことを思い出したマリカはパパが死なないように奮闘する…というものである。

主人公が「マリカ」と同じ名前だけど、ここでは「マリカ」がマリカという人物を演じているということかな?と思っている。テンテンを演じたのはピン芸人のピクニックさんなのだけど、ギャル2人の会話が漫才みたいにテンポが良くて且つ、ギャルの会話らしい不条理感もあって見ているのが楽しかった。笑

この作品、舞台端に枠みたいなものが付いたセットになってて初めは何だろう?と思ったんだけど、眺めてたら古いテレビのフレームだということに気が付いてなるほど!!と思った。セットにもドラマに入ってしまうことを仄めかす要素が組み込まれているのが面白い。

 

マリカとテンテンが入りこんでしまったドラマは、探偵もののサスペンスドラマ。「サカサマ島」に住む謎解きが好きなお屋敷の主人が最高の謎解きゲームを行うために、8人の謎解きが得意な人物を呼び寄せる所から話が始まる。(実はこの舞台自体がそのシーンから始まっている) その8人の中の1人が榊原徹士さん演じる四条司という中々クセの強い探偵であり、マリカたちと初めに出会う人物である。この初見から感じるクセの強さが、後々ドラマの見せ場に繋がってくるのがすごく好き。笑

そして彼を迎えに来たのがマリカの父演じるお屋敷の主人の従者・野際さんである。ほぼ無人島なこの島に急に現れたギャル2人を放っておくわけにもいかず、お屋敷に連れて行ってくれる。この時の2人はまだドラマに入ったことに気が付いていないので、パパそっくりな人が現れたマリカの動揺が少し切ない…。

 

お屋敷には既に他の7人の謎解きが得意な人物が集まっていて、これまた個性豊かなメンツ。彼らが順番に自己紹介をしてくれるのも何となく如何にもドラマぽくて面白い。推しはその中の天才准教授・醐醍さんを演じていたんだけど、こんな可愛い准教授がいるかー!って観る度に思ってた。でも、自分の得意分野のことを聞かれてペラペラ強弱付けて話し始めると止まらなくなる所はすごく准教授っぽさがあったので、お芝居でしっかり作り込んで来てくれてるのが嬉しかった。あと押しはメガネの人物を演じることが少ないので、それも嬉しかった。笑

他の人物も医者、弁護士…等々それぞれ全く違うバックグラウンドを持った人が集まって、それぞれ口癖みたいなものがあって(推しは横顔を覗く材料が~とか横顔が見えてこない~とかだった) サスペンスドラマらしくなってきたな…!と思った所で、それぞれの人物が自分の推理を披露する時にそれぞれかなりクセの強いキメポーズをするのがかなりメタで笑ってしまった。MAXのNANAさん演じる尾上さんのキレキレのポーズめちゃくちゃ美しくて好きだった。笑

これ、それぞれの人物がバラバラのバックグラウンドを持っている訳だけど、実は演じている方々もベテラン~若手俳優、お笑い芸人、ダンスグループ…とバラバラで(柏さんが千秋楽の時に異種格闘技と言っていたのが面白かった)、そこに繋がりがあるのもある意味メタだけど、バラバラ感にリアリティを加えている感じでピッタリだな~と思ったりした。

何回目かの公演からテンテンちゃんが明らかに醐醍さんにメロメロになっていて、キャ~って感じの振る舞いをするのが可愛かったし、ポーズ決める時にメガネを持っていてあげたり、ポーズを決めた後にBIG LOVE!って言ったり、ハート作ってるのもコミカルで可愛くて癒し箇所だった。笑 テンテンちゃんに好かれているのを分かっててチラ見したり、ありがと♡って爽やかに伝える所なんかは人の反応を楽しんでいる節がある。笑 ところで作中で数名がやってるゴ〇ブリポーカーってなんですか?笑

 

この辺りでマリカとテンテンがここがドラマの中で、野際さんが最後に死んでしまうことを思い出すんだよね。この思い出すシーンもシリアスになり過ぎないようにギャルっぽい突拍子のない感じが盛り込まれているのもテンポが損なわれてなくて好きだった。そこから、2人で野際さん=パパがせめてドラマの中では死なないように、犯人を突き止めるために天才たちと推理バトルと始めるのだけど、そんな2人の思いも虚しく、屋敷の主人を筆頭に来訪者が1人、また1人と不可解な最期を遂げる。

暗い雰囲気を打開するためにテンテンが楽しい話しよう!地元に帰ったらやりたいこととかないの!?と残った人たちに聞くけど、誰からもやりたいことが出てこない。テンテンがこの問いを投げかけた瞬間に皆からフッと表情が消えたり、苦笑いしたり…少し空気感が変わるのが感じられて、この辺りから何とな~くこの物語のトリックが見えてきたように思った。私は主に醐醍さんを見ていた訳だけど、亡くなった奥さんとの結婚指輪をまだ嵌めていて、テンテンに問いかけられた時にこの指輪を触って切なく微笑むので、(最終的に明かされる)隠している悲しい思いが伝わってくるのが少し苦しかった。

結局他の来訪者も全員様々な方法で殺害されて、残された四条司が登場人物たちの発した言葉が写し出されるセットをバックにぐるぐると思考を巡らせ、彼のお決まりポーズらしい(?)ブリッジをして推理を導き出す。このポーズを見て急にこれってサスペンスドラマだった~!に引き戻される。笑 こういうサスペンスとコメディの塩梅が絶妙なのがこの作品の一つの魅力だったな、と思う。

 

結局、(ネタバレなので一応反転します)↓

これは自分がもう長くないことを知っていた屋敷の主人が、野際さんに頼んで、「推理が得意、且つ生きているのに耐えられないような出来事があり、死を望む人」を集めて完全犯罪に見せかけて死んでいくためのゲームだった。例えば醐醍さんは結婚したばかりの最愛の妻を事件で亡くしていた。事あるごとに指輪を触っていたのも、後を追うつもりだったんだな~という…。四条司はそれを見届けるために唯一それを知らされずに呼ばれた探偵だった。野際さんも最終的に屋敷に火を付けて主人と共に自害するつもりであった。

 

最後に屋敷を火を付けて主人と共に自害しようとする野際さんをマリカが追いかけて死んじゃダメだよ!生きてたらもっと色々出来るんだよ!!と呼びかけるんだけど、野際さんは涙を浮かべながら私は旦那様が好きだったので行けないと断り、最後にマリカに向けて君はこれからの未来を生きていくんだよ、という旨のことを語りかける。この時のケンケン演じる野際さんの炎の中で決意を固めている凛とした表情にすごくグッと来た。

野際さんとマリカは物語の序盤でも一緒にチェスをするシーンで交流をして、野際さんはマリカの未来を応援するような言葉を語りかけるシーンがあってすごく印象に残っていたから、野際さんが最後まで急に現れたマリカのことを気にかけていた様子に凄く胸がギュッとなったのを覚えている。

野際さんはドラマの人でマリカのパパではないけども、ドラマの中にギャル2人っていう異分子が入っている時点で元々のドラマ通りではないと思うので、彼が最後に彼女に告げた言葉にも少なからず"パパ"自身の意思が入ったものなのではないかなぁと思ってしまった。野際さんはマリカのことを知らないだろうけど、"パパ"としての思考でマリカに話しかけていたのかなぁ…って。

 

結局建物が崩壊してしまう寸前でテンテンに引っ張られて唯一生き残った四条司と共に間一髪の所で屋敷を脱出するんだけど、四条司が切ない表情で燃える屋敷を振り返ると、変な音楽が流れてきて、バックには文字が流れてくる。ここでテンテンが待ってこれ、エンドロール!?!?とツッコむのが本当に可笑しくて大好きだった。笑 さっきまですごく感動的な雰囲気だったのに、急にメタなツッコミが入るからさすがに笑ってしまった。

目を覚ますと、そこはマリカの家で、テレビに流れるのはエンドロール…。あれ、もしかして夢だったのかな?と思いながらも、マリカはパパのことを思って涙を流し、自分の将来についても考えたいとテンテンに話す。そしてパパが大好きだったカレーを食べたくなって2人で材料を買いに行くラストだったのだけど、マリカの少しスッキリとした表情が印象的だった。

パパと和解出来ないまま死んじゃったのは変わらぬ事実としてあるからハッピーエンドであるとは言えないかもしれないけど、ドラマの中で野際さんと話して、テンテンも背中押してくれて、マリカはちゃんと自分のために泣いて前を向けたのかな、と思った。

何もかもが上手くいくわけではないけど、それが現実というものであり、現実は何があっても続いていくものだから、その中で前を向いて生きていくんだよというメッセージが込められているように思えて、すごく突飛な展開でありながら、普遍的なテーマが描かれていることに気が付いて、それがすごく良いなと思った。

演劇って映像と違って観客である自分たちと地続きの場所で行われていることだから、普遍性みたいなものを感じられると、ああ、同じ世界なんだなと思えてなんだか嬉しくなるのだ。

 

単純に何度見ても飽きないテンポ感の良さとか、所謂サスペンスに異分子が介入するという見せ方ならではのシリアスさとコメディタッチのバランスの良さとか、全体的にとても好みだった~~!機会があればまた同じ事務所さんのプロデュース公演観てみたいな~と思った。

あと、推し、是非また小劇場の演劇に出演してください…!