ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

"愛"の話ー「Club SLAZY」シリーズ感想

少し前、フォロワ~さんから未視聴分のClub SLAZYの円盤を借りて、着々と見進めていた。

SLAZYの初めの印象は「クリサマのチケ発が飛び抜けて大変そうだった作品」*1だったのだけど 笑、そのあと気になって1stと4th(とTVドラマ版)だけ飛び飛びで見て(何故そんな飛び飛びで…)作品の雰囲気や物語が好きだなぁと思っていた。改めてきちんと時系列順に見ていくと特に「この人は何故、どういう経緯があってこういう人になっていったのか」「この人はどうしてあの人に執着しているのか」が鮮明に分かってきてすごく面白かった。そして、鮮明になった部分の物語やそこに関連するキャラクターの設定や描写は、あまりにも人間くさく生き生きとしており、非常に惹かれるものがあった。

このシリーズのショーパートはある意味劇中劇みたいなもので、俳優によって演じられているキャラクターが"パフォーマとしての自分"を演じるのを、観客がCLUB SLAZYというキャバレーで直に見ている…というようなきっちりとした入れ子構造になっているので、ストーリーパートで描かれるパフォーマーの仮面を剥ぎ取られた状態の素のキャラクターとの二面性がすごく強調されていると思う。だからこそ、彼らの人間くさい感情とか葛藤とか執着とかを赤裸々に感じることが出来て、キャラクターが生き生きと動いて各々交差していく様子が伝わってくるのがこの作品の大きな魅力の1つだな、思った。

勿論設定の粗い部分もあるとは思ったけど(Finalの大変革はオーナーの意向が入っているとは思えないけど、オーナーどこへ行ってしまった?とか)、そこはテンポの良さと演者のパフォーマンス力でカバーしているので気にならず楽しめた。三浦・伊勢コンビの演出のテンポ感、大好き。

音楽とダンスがすごく素敵なのも作品の魅力をぐんと引き上げているもう1つのポイントだと思った。好きな曲は後で書くけど、単純にどの曲もお洒落でカッコよく、キャストの歌やダンスの艶っぽい魅力を感じられる。聞いてるだけで楽しいし、胸に刺さる曲もあるのですごく魅力的だな、と思う。あと、ジャジーで妖しげな曲もポップで明るい曲も、しっとりしたバラードも、華やかながらに、どこか寂しさや危うさ、おどけた雰囲気を含んでいることが多く、作品の持つ二面性(華やかなショー/人間くさい感情)の両方を感じられてすごい。特に各キャラクターの個人曲はショーらしい煌びやかなアレンジでありながら、各個人の置かれた状況や性質が入れ込まれている部分もあったりして、思わず、秀逸……と唸ってしまった。しっかり歌って踊れて演技も出来る人を上手く集めてくれてるのも説得力があってすごく良かった。(旧CLIEは独特のキャスティングに定評があったけど、ピースをはめるのが上手い印象があって、かなり信頼を置いていた所がある。)

気づいたらあっという間にSPECIAL LIVEまで見終わっていた。

 

最後まで一通り見て、私が一番好きだと思った作品はThe 2nd invitationだった。

あまりにも好きすぎて2,3週間借りてる間に2ndだけ10回くらい見た。

貸してくれたフォロワ~さんも言ってたけど、ポップでおどけた雰囲気とスレイジーの在り方や自分の進むべき道を模索して葛藤するダイナミックさが濃くなる、スレイジーど真ん中!な雰囲気に勢いづいていくのは3rd以降なのかな、という印象がある。2ndはもう少ししっとりとしていて、感情の機微が軸に据えられた繊細さの目立つ作品だと感じた。それ故に細やかな心情の揺れ動きの描写がシリーズイチだなと思っていて、心理描写が丁寧にじっくり描かれている作品が好みな自分には一番刺さった。(Another worldも他の作品に比べると大人っぽいけど、2ndみたいな繊細さよりダークな面が強いなと思う。)

三浦香さんは繊細な心理の表現がすごく上手くて、くどくないのに心の動きが伝わってきて、それが物語の軸に作用していく話の作り方をしていることが結構あると思う。2ndにもそれを感じていて、"彼女"の存在によって起こるKingの心の揺れ動きが物語の軸に作用し、Kingの心の動きを受けてOddsも行動を起こし、自分の在り方に気づいていく。Oddsの動きを受けてスレイジーでの自分の在り方を考えるとともに、傘を切っ掛けにずっと気にかけていたKingとOddsの背中を押したいと思い、行動に移すCB。そしてKingの心の動きによって物語が進んだことで大切な姉を失い復讐に来るも、Kingの様子を見て姉のためになるのは彼の歌を届けることだと気づく、Peeps。すべての真実を知り、もう戻るまいと思っていたスレイジーで彼女のために歌を歌うことにするKing。誰かの心の動きを受けて、また他のキャラクターの心が動いて、物語が進んでいく…という連鎖がすごく繊細で美しくて、心に沁みるなぁと思った。Bloomは傍観者の立場だけど、しっかり彼らの思いを汲み取ってKingにステージを明け渡すんだよね。

OddsがKingへ向ける"絶対に勝てない"というやりきれなさを抱きながらも、嫌いになんてなれなず、彼のことを大切に思う気持ちも本当に愛しいな~と思う。Odds、4thやドラマで見たときは憎めない悪役!という感じだったけど、2nd見たらもう、素直になれない仲間思いな不器用人すぎて、大好きになってしまった。そして彼の立ち振舞いが後輩のCBの立ち振舞いに繋がっていくんだな~と思った。

あと私は傘を使った表現が好きなので、雨や傘が効果的に使用されているのも好きなポイントの1つ。

私がシリーズを通して一番好きな曲はこの2ndの終盤で歌われる「Peeps Gospel」で、すごく切実に"彼女"に向けられ、届かない思いを歌い続ける苦しい歌詞なのに、あまりにも優しい曲調なので、Peeps、そしてKingの彼女への溢れる愛が沁みるように伝わってくる所がすごく好き。聞いていてすごく胸が切なくなる。

僕はここにいるよ 今も歌い続けてる

あなたが聞こえる様に いつまでも

Come back home.

この部分の歌詞は特に見えない"彼女"に歌が届くと信じている様子が感じられてすごく切ないし、彼女に届くように優しくも力強く歌われるのがすごく好きだな~と思う。Peepsが姉の形見の傘を抱きしめながら素朴な歌声で歌うのも、Kingが泣き崩れながら歌うのも、どちらも"彼女"への思いが溢れているのが感じられて好き。

最後にKingが"彼女"へ向けて歌う「サヨナラ」はシリーズを通して様々な場面で歌われているけれど、同じ曲なのに歌われる場面によって全く違う意味を持ち、どれもその場面のために誂えられたようにぴったりな雰囲気なのがすごい。この場面だと、"彼女"へ溢れる愛を歌に乗せて、あの日に言えなかった別れを告げる…という2ndのフィナーレにぴったりな曲になっている。(私は最遊記歌劇伝というシリーズが大好きなのだけど、そこでも三浦香さんは同じ曲を別の場面で別の人物に歌わせて違う意味を持たせる、という演出を良く用いていて、何度もそれで泣かされているので、得意分野なんだな~と思う。笑)

「Peeps Gospel」も4thで再度歌われるのだけど、そこではQがBloomに伝えたい思いを表すように感じられて、また違った意味を持つのが面白い。歌い始めはOddsが歌っているのだけど、Oddsバージョンもたまらなく良い。

スレイジーは究極、「愛の話」だと思っていて、2ndは特にそれが顕著に軸になっており、物語が展開していく切っ掛けがすべて何かしらの愛から始まっているのではないかと考えている。KingとPeepsが"彼女"に向けるのは一番ストレートな愛だし、OddsがKingに向けているのも愛だし、憎まれ口叩きながらもCBが二人に向けているのもやっぱり愛。愛には色々な形や表し方があるけれど、そのすべてに人を良い意味でも悪い意味でも変える力があるのだな、と改めて考えた作品だったな、と思う。(Another worldでV.PがWillに向ける愛なんかはその両面が混ざってしまった結果が描かれてるなと思った。)

スレイジーには"愛"を歌う曲が沢山あるけど、特にストレートに愛をテーマにしているのが「Patient of love」「あなたは知らない」だと思う。

「Patient of love」は支配人Zsの曲で、2ndでもKingの気持ちが揺れ動くターンで彼がそっと優しく歌う。

これはLove!Love !胸が叫んでる

ド直球の「愛」の歌詞なんだけど、優しく包み込むような曲調と歌い方で、諭すように愛を教えるような雰囲気があって、このシリーズに欠かせないピースだと思う。FinalでDooBopがZsのことを「あの人は愛しかない人だから」と表現するのもすごく良い。

「あなたは知らない」はジャジーで妖しげな雰囲気のあるBloomの持ち曲。自分の愛に気付かない女性に向けた曲、と見せかけて、気付かれなくて良いからずっと愛を向けていたいというDeepに(そして恐らくQにも)向けた彼なりの愛の歌なのだと思う。

愛は誰も見えないから 目を閉じてても同じだろう
愛は盲目と言うけど 見ようとしてないだけだろう

愛の本質をつく歌詞だと思うし、Bloomらしい愛の形も垣間見える素敵な楽曲だと思う。

このように楽曲においても「愛」が軸になっていることがよく分かるな、と思う。

 

2ndが好きすぎてその話ばかりしてしまったが、勿論他の作品もそれぞれ持ち味があり大好きである。ただ、全てを語るととんでもない長さになってしまうので、あと2点だけ特に好きな点を書き留めておこうかな、と思う。

 

1点目はQの存在である。

2ndで初登場した彼は、ステージの裏方全般を行うMysticという立ち場であり、パフォーマーたちのお世話係でもある。様々な業務をそつなくこなし、丁寧で優しい口調でパフォーマーたちの話を聞く存在だが、度々鋭い意見を突き付けることもある。また、オーナーと通じており、スレイジーの裏事情を知っている様子であったりと得体の知れない印象を受けるキャラクターである。それ故に初めて見た時は、感情表現だらけのキャラクターの中ではかなり異質に感じたし、すごく人間味が薄いように思った。(実際初期ではアンドロイドなのではないか説も出ていたと聞いた。)

しかし回が進むごとにもしかすると「スレイジーの人々を一番好きで、一番大事に思っているのは彼なのでは?」と思わせるような部分が見えてくる。

まず4thでMysticを去っていったハチ(Bloom)に対しての接し方が随分感情的なのを感じておや…?と思った。そして、Another worldでスレイジーに戻ってきたActが再びスレイジーを後にしようとする際に彼に対してQが「私は自分の選択が常に最良だと思っているので、あなたを止めることはしません。でも、私は、あなたに行ってほしくないと思っている」という旨のことを告げるのだけど、その時の表情を見てすごく驚いたのを覚えている。あまりにも人間くさく感情を隠せない表情だったから。うわ~Qちゃんもこんなに人間らしいキャラクターだったんだな…と思った。

そしてFinalで描かれる8との別れのシーン、泣き顔を隠すためにこだわりを捨てて帽子を被った日、8とJr.を思いながらもあまりにも切なくてやるせない涙に、普段は絶対に見せない姿に、胸がぎゅっと切なくなった。それでもBloomを大切に思い、彼の背中を押すのも堪らないな~と思った。Finalではスレイジーとその人々を救うためにTORIへ行きDooBopをけしかけるシーンもあり、ただ任されたことをするだけの裏方としてではなく、自分の意思で道を切り開いていく様を見せてくれた。彼も愛に溢れた人だったんだな、と思った。このQちゃんのギャップもまた、シリーズの生き生きとした人間らしい物語の魅力を高めていて、すごく好きな点である。

8(Bloom)やJr.(Deep)との関係性も、すごく切なくも愛があって見ていて心が暖かくなる。4,5は彼らが主軸の物語といっても過言ではないと思うし。

 

2点目の好きな点は、「過去との決着」が1つのテーマとなっていて、キャラクターたちがそれぞれ違った形で決着をつけていく様子が描かれているように思う点である。

例えばEndはスレイジーに来て失恋を乗り越えて、ラストに向かうにつれて自分に自信を持ってステージに立てるように変わっていく。Bloomは自分の存在価値が信じられず、一度Jr.との関係性でそれを感じたもののまた彼が手を離れていってしまったと感じて落ち込んでしまうが、最終的にはスレイジーのみんなが自分を必要としてくれているんだと自分の存在価値を肯定できるようになる。CBはその優しさ・弱さ故に長い下積みを経てもトップに立てないコンプレックスがあったけど、その優しさや弱さを自分の強みとして認めていく…というような。上で書いた2ndのKingもまさに"彼女"への思いを歌うことで、過去の自分を清算していると思う。(Peepsもかな)

この"変わっていく"過程が丁寧に描かれているので、キャラクターに奥行きが感じられるのがすごく好きだな、と思った。終わった物語ではあるけれど、その枠を飛び越えて彼らには未来があるし、今はこんな風に生きてるのではないか、と考えさせてくれるというか。一番初めに書いた"人間くささ"の話にもつながってくるけど、そういうのがあまりにも好みなんだろうな…と自分で思う。

 

余談だけど、2ndを見た後に3rdを見た時になんか話の造りとか雰囲気が2ndまでと全然違う!?と思ったんだけど、脚本が伊勢さんだったのでなるほどそれで…!と思った。ワクワクするダイナミックな流れはあったけど、心理描写はそこまで…というのが3rdの印象で、4thは心理描写がまた少し繊細な感じが増えたので、やっぱりその辺りの色は三浦香さんのものである部分が大きいんだろうな…と感じたりした。

この界隈の舞台って感情の機微を据えて話を書く人ってそこまで多くはないと思ってるんだけど、それってこれだけ受け手が女性の界隈でありながら女性の作り手が少ないのもあるだろうなぁと思ってしまった。

勿論男性の脚本・演出家の方でも繊細な表現をされる方もいるし、ダイナミックな表現が得意な女性の方もいらっしゃると思うから、あくまで女性の方が得意な方が多い傾向にあるように思える、という話ではある。性別で作品に対する感性や傾向の話をするのはジェンダー論齧ってる身からするとあまり好ましいことではないとは思うのだけど、この社会を生きている時点で生き方や感じ方に(本人が望まぬ場合も含め)違いがあって、それが作品に表出するのは大いにあることなので、すべて平行に考えることは難しいかな、という思いもあり…。

まあ単純に私は繊細な表現が大好きなので、男女問わずそういう表現が得意な方がもっと増えたら嬉しいな~と思っている、というのが結局のところではある。

 

スレイジーはシリーズがそれなりにあるのでなかなか人に勧めづらい部分はあるのだけど、もし気になったら是非触れてみてくれると嬉しいです。

 

追記

愛の歌の話のところで「愛は幻」のこと書き忘れた…と気付いた。

君はまだ知らない
赤い糸も 永久の愛も
ただのおとぎ話

愛はない どこにも
信じるものを餌にする
monster

こちらはEndが初演で歌う曲なんだけど、正に失恋してやって来た男の歌、という歌詞。(Actも一緒に歌ってる)悪い意味で愛に変えられてしまった人の愛への失望という感じで、曲調も重く暗く、悲しげな雰囲気である。(暗い歌大好きなのですごく好きだけど)

そんなEndもシリーズを通して自分に自信を持てるようになり、終盤のショーでは「もしも…」を歌う。

もし 時を戻せるなら

君のために変わるから

(…)

戻らぬ日々すらきっと
君は抱きしめるだろ
目覚めぬ夢ならずっと
彼女を愛しただろう

うじうじしてたEndが過去を振り返りつつも堂々と「愛」を歌うことが出来るようになる、その成長が良いな~、ととても思う。

*1:私が行ったトークイベントの作品は全然争奪戦ではなかったのだけど、スレイジーだけめちゃめちゃ争奪戦だったと聞いてすご!と思った記憶。笑 確か2017年のクリサマです。