ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

長い旅の終わりと始まりー『最遊記歌劇伝-外伝-』と最遊記歌劇伝シリーズ 感想・雑感など

昨年の4月、最遊記FESTAのステージで『最遊記歌劇伝-外伝-』が上演されることが発表された。

正直ヘイゼル編が終わって向こう5年は続編が見られないだろうと思っていたので、大歓喜だった。しかも念願の外伝!いつか上演されることがあればなぁと待ち望んでいた作品だったので、現キャストと三浦香さんの演出で観られるというのが嬉しかった。

 

その後追加情報が発表された所で、制作サイドからはっきりと「今回が「最遊記歌劇伝シリーズ」のフィナーレとなる」ことが明言された。そんな…と思ったのを覚えている。

私は中高生の頃に原作と、峰倉先生のファンになった。序盤に出てくるとある台詞*1座右の銘にしているくらい、大変影響を受けた、大好きな作品である。*2

その頃は2作目まで上演されて歌劇伝自体が止まっている時期だった。高校生の頃に別ルートで鈴木拡樹さんのオタクになって、観劇を始めた少しあとに発表されたのが『最遊記歌劇伝-God Child-』の上演だった。

好きなキャストがまた好きな人物を演じる!(私は三蔵が一番好きなので) 絶対に観たい!と必死にチケットを確保して観劇したのが、私の最遊記歌劇伝の始まりだった。当日一列総ダブルブッキングが起こっていて、開演直前まで席がなかったのも今となっては良い思い出である。(※二度と経験したくない)

2.5次元という言葉もギリギリまだなかった頃、私も漫画原作の舞台を観るのは初めてだった。原作という絶対的な存在を基に、三浦さんによって舞台らしく再構築され、そこに現れた物語は、自分達と地続きの空間で登場人物が好き勝手暴れまわっているように見えるくらい、生き生きと描かれているのが非常に印象的だった。

原作を読んだ時に気が付かなかった登場人物の心情に気が付くこともあって、良い相乗効果があるんだな、と思ったりもした。そして音楽が素晴らしかった。

観劇したその日以来、大好きな作品になった。

 

その後新作が上演されると聞けば必ず観に行き、制作発表やリリイベに行き、最遊記FESTAのトークイベに行き…思い出のたくさん詰まった作品になった。

と言うわけで、自分が観劇をする中で殆ど切れ目なく続いてきて、10年近く観続けた唯一のシリーズで、自分の行く場所追うもの何が変わっても歌劇伝はそこにあってくれたので、終わりと聞いて本当に寂しい気持ちでいっぱいだった。だけど、キャストが「いつか」と言い続けてくれた「外伝」を、最後に気合いを入れて届けてくれることは本当に嬉しかった。スケジュールがカツカツだったのが少し悔やまれるけど、4回観に行くことが出来た。

 

私が初めて観劇したのは2日目で、前情報入れずに観に行ったんだけど、本当に全てが良すぎて…終わる頃にはマスクが使い物にならなくなってしまった。何度観劇しても慣れることはなくて、その度涙が止まらなくなってしまった。(初日友達と楽しみ♪って入ったら、最前だったのだけは大ウケした)

入ってまずセットが圧巻。天界らしい彫り込みのある手すりと、万年桜が素敵だった。目まぐるしく場所が変わる物語にぴったりの、どこにでも何にでも変わるセットだった。そして静かに西方軍の軍人たちが現れて、観客をそっと物語に呼び込むのが、これは私たちと地続きの場所で紡がれている物語なんだなぁという感覚を強くさせてくれた。

髙﨑さんが観世音菩薩と聞いて何となく想像出来るかも!?とは思っていたんだけど、歌い出した姿、その後の立ち振舞いを見て想像以上で感動した。緩やかで柔和でいて絶対に曲がらなそうな話し方も歌い方もあまりにも私の知ってる観世音菩薩様だったから…RYOHEIさんも素敵だったけど髙﨑さんも本当にハマり役だと思った。シンプルに声量すごい。在原業平の歌*3が引かれた歌、すごく良かった。

原作だと途中に挟まれる過去編を、歌劇伝は天蓬が独白で導入として語ってくれる形に再構築しているがすごく入って行きやすくて良かった。物語の輪郭が徐々にはっきりしていく感じが心地よいというか…。そして捲簾と天蓬の出会いが「寝ている天蓬に引っ掛かる」で表現されてるのが、Burialでの描き方とリンクしていて好きだった。

そこからの主題歌…良すぎて…。歌劇伝は毎回主題歌がすごく素敵だけど、今回も本当に好きで気がついたら口ずさんでる。笑 「永劫輝く命など無いと知りながら 何故俺たちは走るのか」も「生きるために生きる 明日の俺を生かすために」もあまりにも本作のテーマを上手く表現してて良すぎるだろ…と改めて噛み締める。哪吒のパートがあまりにも切ない。

 

主題歌の後に主役としてスポットの当たる鈴木さんの金蝉は、1つ1つの立ち振る舞いや表情から見られる"本当に何もかもつまんなそう"な感じが見事だった(特に作業椅子への座り方)。長年三蔵を演じてきたからこその悟空とのやり取りも、生気のなかった金蝉がどんどん生き生きとしていくのを自然に表現されていて流石だなぁ…と思った。近くで見ているとしかめっ面がどんどん優しい表情になるんだよね。原作のモノローグが引かれた金蝉の歌の、時間がゆっくり流れていく感覚が伝わってくる雰囲気も大好き。

悟空は本編(最遊記)同様に椎名さんが演じられているので、原作のように"子供"ではないはずなのに、しっかり立ち振る舞いがちび悟空なのが好きすぎる。本編以上に周りの人を振り回しているのが見ていて本当に楽しかった。天蓬が来た時のはしゃぎっぷりと日に日に直角になっていくお尻アタックに毎回笑わされた。(ふっきーさんは生放送で見た目より痛くないと言っていたけど…笑) 戦うあんぱんギリギリアウト過ぎる。笑

哪吒との出会い~2人のやり取りは本当に悪ガキの集いで本当に可愛かった。笑 哪吒が悟空に投げかける「お前の代わりはいないってことじゃん それってスゲくない?」の言葉を改めて目の前で聞くと、哪吒はどんな気持ちでこの言葉を発したんだろうか?悟空にとってどんなに救いになったのだろうか?を考えてしまって、胸にグッと刺さった。

特に前半は良い感じの歌のシーンを含む主軸の話の後ろで悟空が暴れまわって金蝉や天蓬が巻き込まれて止める…みたいな様子が描かれている部分が結構あったんだけど、漫画の行間では描かれていないだけできっとこういうやり取りが沢山あって、金蝉は悟空に沢山世話を焼いて、大切な存在になっていくんだろうな~という時間の経過を感じられたのがすごく奥行きがあって良かったと思う。舞台だからこそ出来る表現だと思うし。

時間の経過という意味では、悟空が天界に連れて来られた時にはぐしゃぐしゃに握るだけだった紙飛行機を、天蓬に出会う頃にはきちんと折って作られるようになっていて、自然に成長が描かれていることに気が付いた時は胸にグッと来るものがあった。(飛行機が天蓬のメガネにキレイに刺さった回は本当に驚いたし笑った。)

捲簾は(好きになっちゃうだろ…(?) )な良いお兄ちゃん感が増してて出てくると安心する存在だった。天帝生誕の場での大乱闘が本当に楽しそうで…笑 (あの場面の赤ドレス観世音菩薩様が美しすぎて) 原作だとそこまで気に止めていなかった部分なんだけど、今回の歌劇伝を観て、その優しさ故に自由になれなかった者の痛みに一番敏感であるのは捲簾なんだ、ということにも気が付くことが出来たのが良かった。悟空の足枷への意識、哪吒の怪我を庇う、そしてあの最期…。これに気が付けたのは平井捲簾だったのも大きいかもと思っている。あの包容力と繊細さのバランスは、平井さんだから出せるものかも、と思ったりしたので。

あと天界西方軍第一小隊の隊服、立体になるとレザーっぽい質感なのに動くと軽やかに見えるのが本当にカッコ良くて、自分が男だったらこれ着たい~になってた。捲簾の着こなしはリアルに見るとかなりセクシー。(ランブロに天蓬の隊服姿もあって素敵だったね。)

ふっきーさんの天蓬はとにかく安心感…。飄々としているように見えて頭の中は簡単には悟らせないバランス感が最高だった。夢中になるとベラベラ喋り出す様子の滑らかさも。笑 舞台ならではの天蓬部屋の表現もすごく良かった。これ木だと思うじゃん?クッショ~ンに困惑する捲簾に毎回笑わせてもらった。笑*4

初め北村さんが哪吒なのが発表された時、イメージが繋がらな過ぎて「何故?」と思っていたんだけど、実際に観劇してみると幼い可愛さよりも"天界最強"の説得力が必要だったからなのかな~と思った。悟空を目の前に自分を斬りつけるあのシーンは悟空の必死な無邪気さも、哪吒の葛藤の表情も、何度見ても辛い…。

一幕終わりの歌も儚さと力強さが共存していてすごく好き。「ただお前の名前を呼ばせてくれ」そうだよね…と思いながら聞いてしまった。

 

二幕が丸々逃亡劇だったんだけど、佐奈さんの敖潤の語りもすごく良かった。淡々としているようで、4人を案ずるようでもあり…気持ちが揺れ動くのが伝わることで、4人の覚悟がひしひしと伝わってくるようだった。

恒例の(?)ギャグシーンであり今回は日替わりゲストのシーンでもあったエレベーターシーンが前半に入れ込まれているんだけど、覚えてるでしょ!?とメタ的に言われるのを知らんけど…とあしらう4人にめちゃくちゃ笑った。懐かしい話を色々聞けて笑ったし嬉しかった。笑

藤田玲さんの回は、「こんなにブリアルブリアルしてる2人見て何か思い出さない!?」っていうセリフだったの笑った。当時のメガネを着け、三上さんと一緒に「ヒカリ」を歌うのをまた見られるなんて夢にも思ってなかったので嬉しかった…。

・Burialの三蔵の章のワンシーン再現してくれて3人はあ、何かちょっと…知ってるかも…みたいな感じだけど捲簾だけ全く身に覚えがありませんみたいな感じで、「お前じゃなかったな」「もっと背が高いヤツだった」「アイツ元気かな」と突然話に出る鮎川悟浄

・女優と呼ばれてちょっと調子に乗っていた三上さん

 

逃亡中、悟空と落ちそうになった金蝉が、悟空に金蝉が死んじゃうと思って怖かった~って言われた後にそれはこっちのセリフだ!って返しながらおでこを突くとき、すご~く良いやれやれ感が表情に滲んでいる日があって好きだった。

この後は非常に辛い展開が続いていくわけだけど、"ナタクたち"の表現には驚いた。そして、天蓬のモノローグを発しながら淡々と戦っていくあの場面が本当に良かった。彼にとっては目の前で人を斬っていることよりもずっと大事なことが頭を占めているんだな、というのを再確認出来たというか…。ふっきーさんの殺陣カッコ良かった。そしてそこに捲簾の"ナタクたち"に向けた優しさの滲むセリフが乗ってきて、一層ドラマティックだった。センターの席から観た時に2人の最期が直線状に表現されていて、ああ彼らは別の場所で息絶えたとしても、魂で繋がっているんだなというのを強く感じられてすごく好き。(三浦香さんがブログで悩んで最期を同時に演出することを選んだ、と書かれていたんだけど、大正解ですすぎる…。)

時空ゲートの一連の展開は本当に切なくて。城が崩れて悟空が生きているのを確かめて安堵する金蝉の表情が、序盤のそれとはまるで違っていてこれまた胸にグッとくるものがあった。このシーンで李塔天も被害者であったんだなぁというのを改めて感じたけど、だからって無関係な人を巻き込んじゃだめだよ…という。

閉まりかけるゲートを前に悟空に手を伸ばす金蝉が再び序盤の歌をrepriseとして歌うのも本当に…良かった…。「溶けそうなくらいに退屈な日々よ、消え去ってくれるのか」金蝉にとってこの答えが悟空との時間だったんだな~と改めて思った。素敵すぎる演出。そして「次は必ず俺がお前に手を差し出すから」のシーンは…これが見たかったんだ~~!と思いながらも辛すぎて涙が止まらなかった。

 

涙ながらに彼らの物語の結末を語る敖潤の姿もすごく刺さるものがあったし、佐奈さんの歌は心に訴えかけるものがあって素敵だった…。悟空を抱きしめる観世音菩薩のシーンも大好きだ。

そして最後、三蔵が悟空に手を差し伸べるシーン。原作はここで終わっている訳で、ただ綺麗に終わらせるのであればここで終わらせるのかもしれないけど、その後の希望もシリーズのこれまでの歩みも全部盛りにしてくれるのが香さんである。愛してる。

悟浄と八戒が飛び出して来た時は観劇中で一番泣いたかもしれない。最後の最後にもう一度彼らを見せてくれたこと、Go to the Westを聞かせてくれたこと、本当に感謝しかない。私は歌劇伝の歌の中で回顧が一番好きなので、新しいアレンジバージョンが聞けたのも嬉しかった。

そして、初回を観劇していた時、観世音菩薩の「俺はまた上からの命に背いちまった」が中々出てこないので、どこで来る!?と思いながら観ていたんだけど、このセリフと、現世の悟空が「俺の名前は、悟空!」と言いながらまた"彼ら"と共に歩んでいることをリンクさせて演出に盛り込んでくれて天才か?と思った。流れが美しすぎる。大千秋楽は光明の賭けてみましょうか?に唐橋烏哭が駆けつけてくれたのを配信で観て、待ってたーー!と叫びたい気持ちだった。本当に間に合って良かったです。

最後の主題歌も素晴らしかった。観世音菩薩様をキラキラする二郎神可愛すぎる。

本編で悟空が歌っている「あなたが俺を見つけ出した」を、金蝉が「お前が俺を探し出した」と歌うのが本当に…天才か?(2回目) こういう歌詞を次作で別の人物が歌ってぴったりハメるという演出がすごく多いのも歌劇伝の好きな所だった。浅井さん、愛してる。そして原作では叶わなかった「差し伸べられた金蝉の手を取る悟空」で締めるのも…美しすぎる…。

 

外伝って本編よりも更に強く"生きるということは空虚に時を過ごすことではなく、何かを成し遂げるよう行動すること、自由を掴むこと"みたいなメッセージが強いことを観劇しながら改めて噛み締めたりもした。やっぱり原作が面白過ぎるんだよね…というのを再確認させてくれるのも本当に嬉しい。

私は最遊記歌劇伝で一番好きなのはBurialだったのだけど、この『外伝』はシリーズ最高傑作と言っても過言は無いほど良く出来ている作品だと思った。作品それぞれに思い入れがあって、実際観劇した作品はその時の思い出もあり、選べない気持ちもありつつも、本作は集大成に相応しい作品だったと思う。

大千秋楽のカテコの鈴木さんの「次は記録と記憶の中でお会いしましょう」という言葉は改めて終わりを認識させながらも、清々しさを感じさせる素敵な挨拶だった。円盤が届いたらまた何度も記録を見ながら記憶を思い返したいと思っている。

 

丁度これを投稿した12月30日にこの『外伝』がテレビ初放送されるそうなので、気になった方は是非見てみてください!(唐突な宣伝)

*1:無印1巻の「俺は生まれて死ぬまで俺だけの味方なんだよ」

*2:余談だが、本ブログのトップに置いている言葉も同じ峰倉先生のW.Aのキャッチコピーから取っている。

*3:世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

*4:これリアルに木の棒を投げ捨てて本当に木~って言ってる回があって、めちゃくちゃ笑った。斬新すぎる。