ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

2次元とヴィジュアル系 後編ー2次元のヴィジュアル系バンドは「リアル」か?

前回の記事の続きです。

appleringo.hatenablog.com

引き続き、元ばんぎゃるが漫画、アニメ、ゲームなどに登場する「2次元」ヴィジュアル系バンドに時たま感じる「違和感」の正体とは何であるのか、そして2次元のヴィジュアル系がどこまで「リアル」であるのか――そもそも2次元のヴィジュアル系は「リアル」であるのか、ということについて考えていきたい。

注意事項他は前回の記事の前置きのとおりである。

 

前回は90年代~2012年までの作品を取り上げて簡単に考察してきた。今回は主に2010年代後半の近年の作品を取り上げて考えたあと、まとめに入りたい。尚、前回同様本記事の記載において、取り上げる作品やキャラクター自体を批判・攻撃する意図は一切ないということは申しおきたい。 

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(タイトル横の年数は作品またはキャラクターの初出年を記載。)

8.Squall(バンギャループ)2014年

タイトル通り、バンギャとタイムループが主題の漫画作品であり、物語の核となるのがヴィジュアル系バンド・Squallである。物語は、彼らのファンである主人公が参戦予定だったライブが突然中止となり、その原因がボーカル・霧の突然死だと報じられる事から始まる。悲しみに暮れる主人公だったが、とある事故によりデビュー前のSquallメンバーの家にタイムスリップしてしまう。主人公が過去のメンバーと交流する中で、来るべき未来の出来事が少しずつ変化していることに気づき、「霧の死なない未来」のために奮闘するストーリーである。

本作はメンバーと親しくなりつつ、スタッフのような手伝いも行う主人公の目線で描かれるため、彼女関わる素のメンバーの物語と、ステージ上のメンバーの様子の双方にスポットが当てられている。

Squallのビジュアルは、メンバーそれぞれ黒マスクや女形で個性を出しつつ、黒系衣装で統一されており、ネオ・ヴィジュアル的なコテ系バンドとしてリアルに描かれている。ボーカルの霧が黒い傘を指しながら登場し、「コンニチハ、Squallです」「雨を降らせに来ました」といった挨拶をするのもとても「ありそう」な感じである。オフのメンバーと比べてガッツリとメイクをしていることが分かるのもリアルだと思う。

また、本作にはSquallと関わる存在として、人気バンドRAVENやライバルユニット・ZerOも登場する。RAVENは霧の憧れのバンドであり、非常に人気がある様子が描かれる。メンバーの雰囲気はバラバラだが、それぞれが個性を極めており、ライブシーンでも売れっ子らしい気迫が描かれる。2次元にありがちな取り敢えずそれっぽいものを詰め込んだバラバラさではなく、「バラバラだがバランスが良く成り立っている」売れっ子バンド感がうまく表現されていて思わず唸ってしまう。ZerOは、愁と千草という2人の組んだユニットである。愁はバンドが中々上手く行かない様子が描かれ、バンドだと何となく上手く行かないメンバーが少人数でユニットをするというのが何ともありそうな流れで苦みを感じてしまうリアルさである。可愛い系の愁とコワモテだがラフめな千草の組み合わせはコテではなくオサレ系・キラキラ系の系譜っぽくて「おっ」と思った。ライブシーンで全力を出し切り、ステージで寝転んで笑う姿も妙にリアル。レコード会社の売り出し方と齟齬が生じてぶつかる辺りも見たことがあるような気がして何だか苦い。

全体的なストーリーの中でも、主人公の目的と同時進行で、バンド内・バンド同士の揉め事、レコード会社との出会いや売り出し方による亀裂、女性関係のトラブルなどが描かれ、タイムループというファンタジーとの対比でより現実感が強く感じられて面白い。また、高田馬場AREAや新木場STUDIO COASTなど知っている箱が度々登場するのも面白い。筆者はつい一気読みしてしまった。取り上げた中では、全体的に一番「リアル」を感じられる作品かもしれない。

余談だが、実在したバンドであるカメレオとコラボしていたこともある。

 

9.DRINK ME・MEDICODE (FlyME project) 2015年

こちらは「人気男性声優×V系スペシャルプロジェクト」*1 という触れ込みで始動した2次元バンドプロジェクトである。「異なった見た目、楽曲のV系バンドが同じ音楽レーベルへほぼ同時期に所属。事務所側からはお互いを競わせるため、CDの同時リリースを決める。」*2 というイントロダクションの通り、2つのタイプの異なるバンドが登場する。また、楽曲は実際にシーンで活動しているヴィジュアル系バンドのメンバーがそれぞれ提供を行っている。

DRINK MEは、カラフルだったり、パンキッシュだったりするポップな衣装に身を包み、キャッチなポップ・ロックの楽曲を中心としているバンドである。前回の記事の最後に述べた通り、2次元におけるヴィジュアル系は2010年を回っても殆どが大枠に「コテ系」や「耽美系」っぽいものであり、ヴィジュアル系=コテ系っぽいもの+耽美要素という記号化が行われているように思える。その流れに対して、DRINK MEはお揃いの骸骨柄のパーカーや、カラフルな柄のシャツ、小柄で可愛い系のボーカル、ポップ路線の楽曲といった要素から「キラキラ系」「オサレ系」の系譜を感じることが出来る。ヴィジュアル系を記号的に扱うのではなく、作り込んでいることが感じられて、リアリティがある。筆者は、やっとキラキラ系が現れた~~~!!!と思った。始動直後のニュースサイトの記事にもやはりDRINK MEは「オサレ系」を意識しているのであろうか、という記述があった*3

楽曲も例えば「わくどき☆ワンダーランド」は、ポップな同期と可愛い歌詞にCV.山下大輝のふわふわとした歌い方が相まって、如何にも近年の若手キラキラ系にいそうな感じである。曲の提供を行っているのは摩天楼オペラのキーボードの彩雨である。摩天楼オペラはシンフォニックメタルがメインのバンドなので、随分毛色は異なるが、やはり実際にシーンを見ているバンドマンは強いな…と思った。(歌詞は別の人みたいだけど)「The New World」はアリス九號.(当時はA9)のヒロトの提供曲である。こちらはド直球に得意な感じを持ってきたんだろうな~という感じである。爽やかだけど、同期の感じに「っぽさ」があって良いなと思った。

MEDICODEは、打って変わって黒基調の落ち着いたビジュアルに、コテ系っぽい楽曲のバンドである。こちらのバンドはDRINK MEと比べるとややアニメティックな感じが否めない。多分原因は、コテ系を意識しているのだろうが、何となく中途半端に感じてしまう所かもしれない。ボーカルは思わず「あ…いる…こういう人…」と思ってしまったが、ちょっとシンプルすぎる気もする。でも…女優帽…被っている人、いるよね…。対して他メンバーは中々構造の難しい衣装を身に着けている。にも関わらずメイクが薄めなのも気になるかもしれない。ちょっと「ヴィジュアル系っぽいってこうだろ」という要素を無理やり詰めた感が出てしまっているのが残念である。始動直後のニュースサイト記事でもファンから同じような指摘があったことが記載されていた。*4 シンプルな衣装と難しい衣装の組み合わせは、昨今増えているややロキノン寄りのヴィジュアル系だと結構見かけるかもしれないが、MEDICODEは音楽がコテ系っぽいから違和感があるのかな、と思った。しかしDJってなんだ。

楽曲は、例えば「CARMA」はデスヴォとサイレンから始まり、サビでメロディアスになるという流れが如何にも近年のコテ系バンドの曲らしさがありリアル。曲の提供を行っているのはLM.CのAijiである。LM.Cはどちらかといえばポップ・ロックだが、なんせ以前はPIERROTのコンポーザーだったメンバーである。すごいわかってる。「GABBY」はDIAURAの佳依の提供曲である。こちらもダークな怪しげなサウンドから始まりサビでメロディアスになるというらしさが感じられる曲である。DIAURAは王道コテ系なので、得意分野なのかな、といったところ。歌詞も契約したり、息の根止めそうになったり、足枷が錆びたり、過去を後悔したりと「らしさ」が散りばめられながらクサくなりすぎない感じでリアル。だからこそちょっと衣装とメイクの描写が勿体ないなぁと思う。でも、ロゴはすごくそれっぽいなと思ったりもした。

また、双方のバンドに元々一緒にバンドをやっていたメンバーがいる…という設定があったり、ドラマパートでメンバーのすれ違いが描かれたりと、裏事情の描写はリアル。しかしフライミープロジェクト、突然音沙汰がなくなり、数年間何も動きがないようで残念である…

 

10.フォックス・イヤー (妖かし恋戯曲) 2017年

こちらは乙女ゲーム。攻略対象となるのが、作中の人気ヴィジュアル系バンド、フォックス・イヤーのメンバーである。フォックス・イヤーは狐耳と尻尾を付けたコスプレバンドであり、主人公の従兄弟がマネージャーをしている。ある日、主人公がライブを観に行くと、持っていた勾玉が光り出し、幻覚を見たあと気を失ってしまう。気がつくと、そこはフォックス・イヤーの楽屋であり、彼らは勾玉を奪おうとしてくるが、彼らはそれに触れることが出来ない。なので、主人公をマネージャー補佐として側に置くことを要求する。幻覚の正体が気になる主人公は、戸惑いつつも話を受ける。メンバーたちは実は妖狐であり、興奮すると本当に狐耳と尻尾が生えてしまう。(カモフラージュのために耳と尻尾を付けていた)そして、妖力の増幅のために主人公の持つ勾玉を探していたのであった。如何にも乙女ゲームらしいストーリーである。

今述べた通り、フォックス・イヤーは妖狐によるバンドであり、必ず耳と尻尾を付けてステージに立っている。この時点で凄くファンタジー色の強い設定なので、リアリティがどうのと考察するのは野暮な気もしてしまうが、ヴィジュアル系と冠しているからにはリアルのバンドからの影響もあるだろうということで、ファンタジー要素を除いた部分で考えていきたいと思う。(耳と尻尾で言えばSHOW BY ROCKのシンガンクリムゾンズも生えていたし)

まず耳と尻尾を除いたビジュアルは…といきたい所なのだが、その前に気になることがある。…ボーカル、誰よ?キャラクター紹介にはボーカルの記載がない。と思って調べてみたら、どうやら全員で歌っているらしい。そういう感じ!?私の知っている限りでは、全員ボーカルを兼任のバンドはいない気がする。いるにはいるのかもしれないが、簡単に検索した限りでは見当たらなかった。全員で歌うってなるとイメージ的にアイドルバンドっぽくなってしまってヴィジュアル系っぽさは薄れるな~と思う。せめてメインボーカルが決まっていたらな。あと音楽性に関しては作中でもあまり触れられていないらしく、よく分からずじまいである。

気を取り直してビジュアルは、メンバーそれぞれてんでバラバラだが、全体的にアニメティックな感じが強い。リードギターの暁仁は、前がガッツリ空いたシャツに革ジャケット、ダメージスキニー。セカンドギターの霞美は王子系。ベースの晃征は暁仁を少し大人っぽくした感じで、ドラムはサルエルにカラフルタンクのオサレ系。キーボードの螢丞は軍服風。暁仁と晃征の衣装は、前回の記事でも書いたように、V系要素を部分的に取り入れたファッションであるお兄系を元のヴィジュアル系と混同して扱ってしまっているように見受けられる。他のメンバーは単体で見ればコテ系、キラキラ系、耽美系で、それぞれいそうな感じである。いやでもやっぱりお兄系の隣に王子や軍服は並ばないだろう。「ヴィジュアル系=コテ系っぽいもの+耽美要素」という2次元的な記号化に縛られず、ヴィジュアル系にも多種多様なタイプがいることを把握した上で作っていることが分かるのはとてもありがたいが、とにかくそれっぽい要素を詰め込みすぎてかえってゴチャッとしてしまっているのが残念である。

まあ本作は、音楽よりも妖要素のほうがメインであるように見受けられるので、2次元感が強くても仕方がないのかもしれない。ちなみに作中には、同じく勾玉を狙う狸の妖のバンド・ピエロ―ズも登場する。狐のライバルが狸なのはなかなか面白い。

 

11.四十物十四 14th Moon(ヒプノシスマイク)2019年

こちらはキャラクターラッププロジェクト。女性が政権転覆を行い、武力を根絶させた世界で、男性は地区(ディビジョン)ごとにチームを組み、武器に代わり特殊なマイクを通してラップをすることで戦うことで領土を勝ち取っていくというのがメインテーマである。本作では様々なディビジョンの代表チームのキャラクターが設定されており、それぞれの個性的な楽曲と、キャラクター同士の因縁を描いたストーリーが展開されている。その内、追加チームであるナゴヤ・ディビジョンのキャラクターの一人が、ヴィジュアル系バンドマン・四十物十四(14th Moon)である。チーム曲のPVで名古屋E.L.Lの入り口に十四が佇む様子が映るので一部で話題になったりもした。

本作のチームのメンバーは様々な経緯で集まっているので、年齢も職業・経歴もバラバラである。そのため、ナゴヤ・ディビジョンにおいてもヴィジュアル系バンドマンという設定なのは十四だけであり、十四がボーカル担当であるという情報 *5以外、具体的なバンドの設定や他のメンバーの描写はまだ登場していない。しかし、明らかにV系を意識した濃い目のキャラ付がされていたり、個人楽曲を提供しているのが実際にシーンで活動しているバンドのLeetspeak monstersのであったりするので、その辺りに着目して考えていこうと思う。

まず、ビジュアルは、黒髪に金メッシュで後ろがロングの髪型に、ナポレオンのロングジャケットを羽織っている。雰囲気的には、耽美寄りのコテ系っぽさがある。しかしここで一つ疑問が。この服、私服…?勝手にステージ衣装だと思っていたが、友達に聞いてみたらヒプマイの他キャラクターが普段メインビジュアルの服装で過ごしているのを見ると、私服では?と言っていた。確かに。私服だとするとちょっとコスプレ感がありすぎるかもしれない。こういった服を私服にしているバンドマンはあまりいないだろう。

そして、彼には初対面の人の前だと芝居がかった喋り方になってしまうという癖がある。そうした喋り方で「それが貴殿のレゾンデートルなのであろう…」「我は華麗にして混沌のボーカリスト…」*6等といったことを言う。ゴリゴリの厨ニ病発言である。何というか、ヴィジュアル系に傾倒している人間というと世間的にはまだこういうイメージなのだろうか…と若干心配になってしまう。勿論こういう世界観が好きな人もいるだろうが、今のヴィジュアル系というジャンルでは、それがステレオタイプには成り得ないと私は思っている。ヴィジュアル系のイメージが大分前で時が止まってしまっている気がしてくる。これが、「ヴィジュアル系=コテ系っぽいもの(+耽美要素)」という記号化の原因かもしれない。しかし元の喋り方に戻るときゅるんとするの可愛いよね。十四。

上述の通り、十四のバンドの詳細はまだ描かれていないが、ソロ曲はLeetspeak monstersの提供であり、コテコテのヴィジュアル系っぽさを盛り込んだ一曲である。イントロの何となく重苦しい感じが如何にもゴシック耽美系のそれである。私はこの曲を聞いた時、何となくゴールデンボンバーの「†ザ・V系っぽい曲†」を思い出してしまった。まあ、そういうことなのだろう。しかし、この曲調にラップが盛り込まれているというのは結構新鮮で面白いなと思う。Leetspeak monsters自身もゴシックなミクスチャーロックバンドであり、ボーカルのD13がラップも担当しているため、得意分野なのかなと思う。

余談だが、同作品のシンジュク・ディビジョンの伊弉冉一二三の2つ目のソロ曲をゴールデンボンバー鬼龍院翔が手掛けており、一時期界隈で話題だった。どこを取ってもあまりにもキリショーである。キリショーの固有性ってすごいんだなと思った。

 

12.Fantôme Iris(ARGONAVIS from BanG Dream!)2019年

こちらは、バンドリ!ガールズバンドプロジェクトの派生作品であるボーイズバンドプロジェクトである。そのうち、今年冬リリース予定のゲームアルゴナビスfrom BanG Dream! AAside」に登場予定のバンドの一つがFantôme Irisである。少し前に、実際にシーンで活動しているバンドであるシドが楽曲提供をすることも発表されている。まだバンドストーリーが発表前なので、公開されているビジュアルと設定、楽曲を基に考えていこうと思う。

ビジュアルは、黒基調で、正統派のゴシック耽美系でまとまっている。ボーカルめっちゃ王子じゃん、と思ったらリアルフランス貴族だった。「ようこそ白銀の百合咲き乱れし夜会へ。」*7というセリフが添えられて耽美系のバンドってこういう感じだよね…と妙に納得してしまった。リアル。他にも女形がいたり、ヴァンパイア設定の人がいたりと、なんかありそうな感じである。唯一少しだけ違和感を持ったのは、ギターの洲崎遵。中の人がイベントで「ヒャッハーしちゃってる」と述べている*8通り、狂気的な笑みを浮かべ、首に棘の付いた衣装を着ており、どちらかと言えばネオ・コテっぽさがあり、他メンバーの耽美っぽさからは若干浮いているような?この辺りはやはり「ヴィジュアル系ってこういうの」を詰め込んだ結果なのかなぁと言う気もする。でも、全体的に見れば衣装やメイクは結構リアリティがあるかなと思う。あと、竿隊の楽器が一人ひとり個性的に描かれているのも面白い。御劔のギター可愛い。

楽曲は、前述の通りシドが担当しており、現段階で発表されているのは「銀の百合」で、MVも公開されている。元シドギャからすると「あ~明希曲~」となる感じである。おどろおどろしげなイントロや起伏の少ないAメロがゴシック耽美系のバンドの曲っぽい。「月夜に照らされて光る」や「深紅の夜に溶ける」といった歌詞の退廃的さもそれっぽい。そしてMVなのだが、あまりにも所謂「耽美系・コテ系あるある」過ぎて驚いてしまった。最後の晩餐か?という大きなテーブルに着くメンバー、絡まるチェーンと飛び交う羽根、籠に入れられたぬいぐるみ(これをみて洲崎遵がマスコット的ポジならありなのかもと思ったりした)、教会での演奏、飛び散るガラスの破片…あまりにもてんこ盛りである。前の記事で紹介した不破尚(スキップ・ビート!)の「Prisoner」くらいの盛り盛り度である。ここまで一つの曲に詰め込むか?というのはあるが、あまりにも既視感があるからリアル…と言いざるを得ない。是非他の曲も早く聞きたいものである。

 

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以上、90年代~現在までの2次元作品に登場するヴィジュアル系バンドについて1つずつ考察してきた。どの作品に登場するバンド(キャラクター)も「ヴィジュアル系」を表すために様々な設定や工夫が施されており、調べていて興味深かった。元々知っていた作品も、こうして他の作品と並べてみると、カラーがはっきりして面白い。しかしながら、こうした設定や工夫が実際には「ヴィジュアル系」を表すことからはズレてしまっていたり、時代にそぐわなかったりすることがあるということが分かった。ここでは全体を通して感じられたそうした違和感についてまとめたいと思う。

 

①謎のファーの存在とお兄系との混同?

これは特に前半の記事に登場した作品(2012年以前)に多く見られた傾向である。だが、コテ系または耽美系っぽい黒っぽい衣装に肩からファーを担いだキャラクターが複数の作品で登場しているのである。しかし、実際に衣装で大きなファーを担いでいるヴィジュアル系バンドマンというのは、そんなにいない。実際に肩からファーを担いでいるのは「BELIEVE」の時のSOPHIA松岡充くらいだと思う。あれは松岡充だから為せる業である。多分。だからコテコテ衣装+でかいファーという組み合わせがよく登場するのはやはり違和感がある。

前の記事でも述べた通り、恐らくこれは2006~8年頃に流行していた「お兄系」のファッションとの混同に起点があるのではないかと筆者は考えている。ヴィジュアル系の要素を取り入れたファッションである「お兄系」をヴィジュアル系そのものと混同してしまっているのではないかと思うのである。ファーではないが、「妖かし恋戯曲」のキャラクターの衣装もお兄系との混同らしきものが見られた。こうした勘違いが微妙な違和感を演出してしまっているのかもしれない。

 

②系統混ぜすぎ問題

筆者はヴィジュアル系のことを自由と多様性のあるジャンルだと思ってはいるが、バンド単位で見ればそれぞれテーマやカラーがあり、統一感のあるバンドが多いと思っている。バンドごとに、コテ系、耽美系、オサレ系、キラキラ系などそれぞれのバンドが得意とする方向性(時には近い方向性を併せ持っているバンドもいるが)に合わせた音楽やビジュアルを提示しているということである。しかし、2次元作品におけるビジュアル系は、「それとそれ並ぶ?」という系統を混ぜていることが度々見受けられる。コテ系っぽい衣装でまとめたビジュアルだけど音楽は非常に爽やかであったり、コッテコテのボーカルにめちゃくちゃカジュアルな格好のギターが並んでいたり、コテ系、キラキラ系、耽美系なビジュアルのメンバーが全て同じバンドに混在していたり、といった形である。ビジュアルと音楽を切り離し、メンバー同士を切り離して考えれば上手く文化を取り入れていたとしても、同じバンドに共存してしまうと「ごった煮」感が出てリアルさがぐっと下がってしまうと思う。様々なヴィジュアル系っぽさを見せてくれようとした結果なのかもしれないが、逆に微妙さが生まれていて勿体ないなと思った点である。

 

③「ヴィジュアル系=コテ系や耽美系っぽいもの」という記号化

一番気になったのは、やはりこの部分である。今まで紹介してきた2次元作品におけるヴィジュアル系の殆どは、コテ系や耽美系と呼ばれる黒っぽさや豪勢さのある派手な衣装やメイクでまとめたビジュアルに、退廃的、ゴシックな要素のある(見ようによっては厨ニ病っぽさがあるものもある)楽曲を演奏しているバンドであった。こうした系統のバンドは確かに実際のシーンにも多数存在している。

しかし、前にも述べた通りヴィジュアル系というのは実際は結構多種多様であり、自由と多様性のあるジャンルである。特に2000年代(ゼロ年代)以降はオサレ系やキラキラ系といった、カラフルだったり、ポップだったりするバンドも多数登場しているし、オサレ要素を加えたコテ系もいる(コテオサ)。90年代から現在に至るまで黒っぽさとは真逆の白系と呼ばれる儚さや清廉さを表現するバンドもいるし、和風バンドも今や定番である。にも関わらず、2次元作品におけるヴィジュアル系は今も殆どがコテ系や耽美系ばかりなのである。実際、記事で紹介した中で他の系統と言えるのはキラキラ系らしい「Flyme project」のDRINK MEや、オサレ系らしい「バンギャループ」のZerOくらいだろう。オサレ系やソフビを主として聞いて育ってきた筆者としては、やはりこの記号化に違和感を持たずにはいられないのである。

アニメやゲームで実際にある文化を扱う場合、流行をタイムリーに取り入れるより少し後から「っぽさ」を抽出することの方が多いのではないかと思うので、ゼロ年代くらいまでは黒っぽいバンドが多いのも頷けるが、それ以降はより多様化が進む時代に入ってくる。2次元作品のヴィジュアル系はその辺りで時が止まってしまっているものが多いように感じてしまうのだ。あと、オサレ系やキラキラ系っぽいバンドのキャラクターはヴィジュアル系という枠組みではない形で2次元の作品に登場しているような気もしている。(例えば、「DYNAMIC CHORD」の[rêve parfait]や「ROOT∞REXX」のREXXなんかがそんな感じ。) あと、2次元だとアイドルジャンルの方にそういった雰囲気を持ってかれてる気もしている。(それを悪く言うつもりはない。)

まあ言ってしまえば、2次元の作品というのはあくまで2次元であり、現実とは違うものである。誇張表現や記号化が主であるものに関してこうして「リアル」であるか?を考えること自体もしかしたら見当違いのことなのかもしれない。制作側ももしかしたら「それっぽさ」があればよく、「リアルさ」を重視してはいないのかもしれない。

しかし、人が作った表象は程度の差はあれど何であれ実際の世界を映すものだろうし、バンドが登場するとなればある程度「現実感」を考えずに作ることは難しいだろう。受容する側だってそれを期待しているところがあると思う。実際の文化の流れを汲まず時が止まったままでいるというのは、そうした現実感からの乖離に近づいてしまうことではないかと思う。そうなればある種の古臭さだけが残ってしまう可能性もあると思う。

筆者は今20代半ばで、丁度ネオ・ヴィジュアル系が盛り上がっている時代をヴィジュアル系と共に生きてきた世代だ。古き良きも勿論好きだけど、それだけがヴィジュアル系って思われるのはやっぱり悔しいし、普段ヴィジュアル系は聞かないけど2次元は好きって子たちにヴィジュアル系のキャラってなんかずっと同じような感じの人しかいないよねって思われるのも正直悲しい。これから出てくる作品ではどうかポップなバンドもヴィジュアル系として沢山登場してほしいなと思う。

 

長くなってしまったが、以上が、元ばんぎゃるである筆者が感じた「違和感」のまとめである。最後に、主題である「2次元のヴィジュアル系は「リアル」であるのか?」という問いについての結論を述べて締めたいと思う。

「2次元のヴィジュアル系は、作品ごとに言えば、非常に「リアル」であると言えるバンドもいる。しかし、どこか違和感のあるバンドもいる。「ヴィジュアル系」というシーン全体で考えると、時が止まったような感覚を覚える部分があり、現在のイメージから言えば「リアル」とは言い難い部分が大きい。」といったところだろうか。

これからも2次元のヴィジュアル系の動向には注目していきたいなと思う。

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

(何かありましたら、マシュマロかTwitter:post_siteimasuまでどうぞ。)

 

P.S. 完全に余談なのだが、今回扱わなかった「ビジュアル探偵明智クン!!」というヴィジュアル系の探偵が活躍する作品の2巻の表紙で、明智クンが取っているポーズ*9と、「SHOW BY ROCK!」のアイオーンのポーズ*10と「ヒプノシスマイク」の四十物十四のポーズ*11や、今回は取り上げていないが「SKET DANCE!」のダンテ*12のポーズがほぼ同じであり、「このポーズってヴィジュアル系っぽいポーズとして定着しているんだな…」と思ったりした。何となく分かってしまう所が悔しい。

 

[5/22追記]

ありがたいことに、引用で感想を書いてくださった方がいらっしゃったようで…

嬉しいです。ありがとうございます。

ご意見を頂いたJZEIL(DAIIGOのいたバンド)もファーをまとっていたような(ジャケットだったのかも)…?の件、JZEILに明るくないので調べてみたのだけど、ファージャケットもあったけれど、確かにジャケットの襟元に黒いファーをあしらっているっぽい衣装がありました!!DAIGOはDAIGO☆STARDUST時代もカジュアルにお兄系な感じだし、DAIGOになってからも蝶の羽とか背負ってるし、ファーくらいまとっててもおかしくない気がする(?)

スターも沢山ありがとうございます。

*1:「News | FlyME project」http://flymepro.com/news/

*2:「aboutFlyMe | FlyME project」http://flymepro.com/about/

*3:V系×人気男性声優陣がコラボ! 謎に包まれた「FlyME project」ってなに?」https://www.excite.co.jp/news/article/E1422856870742/?p=2

*4:同上

*5:『Bad Ass Temple Funky Sounds』Drama Track「不退転の心は打ち砕けない」より

*6:同上

*7:「キャラクター紹介 | アルゴナビス from BanG Dream! AAside(ダブルエーサイド)」https://aaside.bushimo.jp/characters/#tabs1-f

*8:「“ファントムイリス”キャストが初お披露目! 池袋に“ゴールライン”が響く『ARGONAVIS』ステージをレポート」https://www.bs-log.com/20191123_1382881/

*9:こちらを参照「まんがタイムきらら - 作品紹介ページ - まんがタイムきららWeb」 http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=132

*10:こちらを参照 「シンガンクリムゾンズ | TVアニメ「SHOW BY ROCK!!」」http://showbyrock-anime.com/character/shingancrimsonz/

*11:こちらを参照「CHARACTER|音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』オフィシャルサイト」https://hypnosismic.com/character/nagoya/14th_moon/

*12:こちらを参照「『SKET DANCE』出演&劇中歌のGACKTインタビュー | アニメイトタイムズ」https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1308937924