ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

ヘッドドレスのゆくえー"ロリィタ"と"令和のネオ・ヘッドドレス"

友達の推しが出ている舞台作品で、ゴシック・ロリィタブランドとのコラボ服が発売された。以前ロリィタを着ていた友達は大変喜んでいて、コラボ服を購入して久しぶりにロリィタを着ると言っていた。(作りが凝っていて素敵なコラボ服だと思う) シリーズものの作品で私も毎回観に行っているのだが、友達が一緒に観劇する際にも着ていくと言っていたので、私も久しぶりに黒ロリィタを着ていくことにした。

バンギャル時代はライブでよく着ていたが、観劇ではあまり着ていく機会がなかったし、一緒に着てくれる友達もあまりいなかったのでとても嬉しかった。

 

しかし、前日に準備をしながら1つ困ったことに気が付いた。丁度良い頭もの*1がない。

普段黒系のロリィタを着る時はベレーやハットを合わせることが多いのだが、観劇では邪魔になるので付けられない。かといってリボンカチューシャやヘアクリップは白とか赤しかなく、合いそうなものがなかった。(もしかして:実家に置いてきた)

今はヘッドドレスが付けたいな~という気分だったので観劇の前にどこかの店に買いに行こうと決めたが、マチネ公演なのでブランドの店を回っている時間の余裕が無さそうだった。クローゼットチャイルド*2は近くにあったっけ…と考えていた時にふと、あることを思い出した。それは、以前渋谷の109に行った際、上の方のフロアで何だか懐かしいファッションを取り扱っている店舗を見かけたことだった。

トゲトゲが付いた合皮のチョーカー、クロスの付いた黒いレースのチョーカー、黒+赤や青のボーダー柄のニット、赤×黒のチェックのプリーツスカートやジャンパースカート、ボンデージパンツ…今の若者向けであろうその店に見慣れた様相の服が沢山並んでいて、バンギャの友達と令和に?と驚いたものであったが、その中に確かヘッドドレスもあった。それがロリィタに合わせられるようなものかは覚えていなかったが、店は確かスピンズだったと思い出し、劇場の近くにあったので、観劇前に寄ってみることにした。

(ひとまず黒いグログランリボンはあったので、念のためヘアゴムは作っておいた。)

 

店舗に到着すると、記憶よりも随分豊富なバリエーションのヘッドドレスが並べられていた。白・黒・ピンク・水色など色とりどりで可愛い。少しレースがちゃちなものもあったが、しっかりとした作りのものも並んでいた。黒のトーションレースにリボンとレースアップがあしらわれたものがシンプルで可愛かったので合わせてみたが、着ていたBABYのブラウスにもイノワのスカートにもしっくり来たので、購入した。隣を見ると気付けば友達も色違いを購入していて、お揃いになった。友達の赤と黒を基調とした豪華なコーディネートにも良く合うヘドレだった。

良い頭ものが見つかり、舞台も面白かったので、大変満足した一日を過ごせた。スピンズには感謝であるが、同時に、恐らくスピンズがあんなにも豊富な種類のヘドレを取り揃えているのは、ロリィタに合わせるためではないのだろうと考えていた。

 

特に20代後半以上の人々のストリートファッションにおける"ヘッドドレス"の存在は、ロリィタ服に結び付いていることが多いように思う。私の周りの同年代~やや上の世代の人に聞いてもそういうイメージがあると言われることが殆どである。ロリィタという言葉を知らなくても、"フリフリの豪華な洋服のアクセサリー"、といった具合に。世代的に、漫画ローゼンメイデンなどの影響もあるのかもしれない。(学生の頃に萌えとかメイドが流行った世代でもあるので、あのホワイトブリムのカチューシャを想像する人も一定数いるかもしれないが、ファッションではないのでここでは一旦除外すべきだろう)

しかし、スピンズのヘッドドレスが置いてあるコーナーに掲げられていたのは「地雷系」や「天使界隈」といった言葉であった。

 

「地雷系」はもうすっかり世間でもお馴染みの言葉になった節があるが、フリルやリボンで彩られながらも、黒やピンクを基調としており、十字架やベルト・バックルなどの束縛・依存を連想させるような「病み・闇」要素が取り入れられたファッションである。*3

「天使界隈」という言葉はこの時初めて聞いたのだが、調べてみると登場はファッションとしての「地雷系」とそう変わらない時期(2016~2017年くらい)であるようだが、広く認知されるようになったのはここ1~2年のようである。

このファッションスタイルは、天使を彷彿とさせる白や水色などの儚げな印象を持つ色を基調としており、天使の羽のモチーフやフリル・レース等の可愛らしい装飾が施されながらも、ロリィタや量産型・地雷系などと決定的に違うのは、メインがジャージやジャージ素材のパーカー・スカートなどのカジュアルな服装だということである。このファッションを知った時、確かに最近淡い色のオーバーサイズのジャージや厚底靴が販売されていたり、優しい色味のカジュアルな服装の人を見掛けることがあるな、と腑に落ちたのであった。

「地雷系」も「天使界隈」も両方何となく「今を生きている」という刹那的な印象を持つファッションだな、と思った。特にデジタルネイティブな10代~20代前半の世代のイメージには良く合致するとも思う。これが令和スタイルというやつなのかもしれない。

しかしながら、両ファッションスタイルの特徴は良く理解できたが、「このスタイルにヘッドドレスを…!?」というのが正直な感想であった。横にいた友達に、ジャージとかにヘドレを合わせるらしい…と言ったら、彼女もジャージにヘドレを…!?と驚いていた。やはり、実際に見てみないとなかなかイメージが沸かないものであった。

その後のとある日、原宿に行く用事があり、普段使い出来そうなブラウス無いかな、と地雷系の服を取り扱うブランドの店舗に寄ってみたところ、実際に黒とピンクの地雷系ファッションに黒いヘッドドレスを着けている高校生くらいの子を見掛けたのである!また、そのブランドは所謂「天使界隈」向けのジャージも取り扱っていたようで、ダボっとしたジャージ生地のパーカーに、同じくヘッドドレスを着けた女性が歩いているのも同時に見掛けたのである。実際に着けているのを見ると、地雷系は元々装飾の多いファッションであるし、天使界隈も"ジャージにヘドレ"とは言っても綺麗な色の装飾のあるジャージのアイテムに合わせているためか、頭だけ浮いてしまうようなことはなく、可愛いなと思った。私はヘッドドレスをとても可愛いアイテムだと考えているので、ロリィタが減少してしまった今、ヘッドドレスが受け継がれていくのは嬉しいことだと考えている。なので、原宿という地で、ヘッドドレスが"令和のネオ・ヘッドドレス"として新しいファッションに取り入れられているのを見られたのは、とても嬉しかった。

そういえば、雑誌「KERA!」があった頃は、フェアリー系やパンク系のMIXコーデとしてロリィタのヘッドドレスが取り入れられているのを見掛けたことを思い出した。これは、このファッションのアイテムだけど、こっちのファッションにMIXしてもカワイイよね!という発想であった。しかし、上記のファッションにおいては、ロリィタがMIXされたコーデというわけではなく、型として既にヘッドドレスが組み込まれているような印象を持った。MIXとかではなく可愛いものを単純に取り入れて成立している辺りも"ネオ"だなと個人的に思った。

ちなみに、令和のネオ・ヘッドドレスは大体がクリップ式になっており、横についているあご紐は結ばずに垂らすのがトレンドらしい。結ばないんだ!? なんて斬新なんだろうと思う。でもクリップ色は、ロリィタブランドで良くあるコーム式よりも格段に着けやすいと思った。

 

余談だが、「地雷系」「天使界隈」で用いられているヘッドドレスは、どちらも型を見ると元はロリィタ・ファッションで使用されているものを流用していることは明らかである。しかし、フリルやレースをあしらったブラウスやスカート等が着用されるスタイルからロリィタの影響が強く感じられ、ヘッドドレスの流用が自然に感じられる「地雷系」と比べ、「天使界隈」は少し違ったルーツが混在しているのではないかと考えられる。

というのも、「天使界隈」を身に纏う女性たちの写真を拝見していると、度々ジャージ素材の洋服に真っ白なエプロンを着用している人が見られる。また、淡い色のレッグカバーを着用している人も度々見られ、サイバー・ファッションからも影響を受けているものと考えられる。*4この"真っ白なエプロン"はロリィタ・ファッションで用いられている"エプロンドレス"のタブリエやエプロンとは様相が異なっており、見た時に想像されるのは明らかに「メイド服」であろうと思う。また、サイバー・ファッションは"近未来"をイメージさせるものであり、そこにはアンドロイドとか、ロボット的なイメージも含まれていると考えられる。*5 このアンドロイドやロボットにも、特にサブカルチャー方面では一定の「メイド」イメージがそれなりに定着しているように思う。

先程少し、ヘッドドレスに「メイド」のイメージを抱く人も一定数いるだろうということを述べたが、以上の点から、「天使界隈」で用いられるヘッドドレスにはもしかするとこうした「メイド」のイメージも包含されているのではないかと考えられる。(あくまで憶測ではあるが)

実際に「天使界隈」と検索してみると、「サブカルジャージメイド」という検索候補が表示され、「天使界隈のメイド」ファッションを着用している人も見られるので、あながち間違ってはいないのかもしれない。「メイド」もファッションになる時代なのかと思わされる。

 

ヘッドドレスにせよ、レッグカバーにせよ時代とともに着用する人が少なくなっていったアイテムである。また、「メイド」的なイメージにしても、流行していたのは平成であり、少し前の時代であろう。こうした少し前に流行したものがまた時代とともに注目されるのは世の常なのだろう。今は平成ギャルもリバイバルしているようで、文化祭とかでこういう格好をしたりするの、可愛いよねーと話している女の子たちを見掛けた。

こうしたファッションアイテムやファッションスタイルは、当時流行した形とは様相を変えながら、"ネオ"なファッションスタイルに受け継がれている。しかし、どの時代においてもその根底には"カワイイ"の魂があるように思う。

"カワイイ"は少しずつ姿を変えながらも、繰り返していくものなのだろう。

 

*1:ロリィタに合わせるヘアアクセサリーのこと

*2:ゴシック・ロリィタ・ヴィヴィアン等の専門古着販売店

*3:こうして言葉に書き記してみると、趣向としてはロリィタよりはパンク・ファッションに近いな、と今改めて思った。

*4:サイバー・ファッションも現在のものと90年代後半に流行していたもので少し様相が異なるようだが、ここではどちらかと言えば90年代後半のものをイメージしている。

*5:「天使界隈」で着用されているレッグカバーを見ていると、正しくアンドロイドのキャラクターである、ボーカロイドシリーズの鏡音リン・レンを思い出す。