ささやかな備忘録

いつか死ぬ日の僕のために

「貴方の選択で貴方の世界が作られる」ー演劇調異譚「xxxHOLiC-續-」ホリ譚 感想ほか

普段、観劇の感想などは公演期間が終わった後に書き始めることが多いのだけど、感想を書く公演というのはすごく良い公演だったことがほとんどなので、折角なら興味を持った人が観に来てくれるきっかけになればな~と思い立ち、今回は公演中に感想を書き始めた。しかし、始めてすぐに残りの東京公演が中止となってしまい、悲しみながら兵庫公演是非観に来てね…という記事にしよう…と思っていたらそちらも中止になってしまい、筆が止まってしまっていた。

しかし、とても素敵な公演だったことに変わりはないし、初日のアーカイブ配信が始まったようなので、気になったら配信を見てね!という意味でも、いつも通りの備忘の意味でも、感想を書き留めておこうと思う。

太田さんは無事に退院されたとのことで、本当に良かった…お大事になさってください…。

というわけで、演劇調異譚「xxxHOLiC-續-」の感想など。

※ネタバレ有なのでご注意ください。

 

*****

ホリ譚は初演も推しが出ていたので10公演くらい観に行った。

推しが演じたキャラクターが本筋に絡む話はそこで済んでいたので*1、次回作には出ないだろうな~と思いつつ、話の構成と演出がすごく好みだったし、キャストのイメージもぴったりだったので、推しが出なくても次回作があったら是非行きたいなと思っていた。(個別の記事は書いてないけど、2021年観劇まとめに感想を書いている。) なので、「續」にも推しが出ると発表された時はすごく嬉しかった。

忙しい時期が被っていたので10公演強観る予定でいて、途中で中止になってしまったので、観劇出来たのは初日含む5公演。(神戸も行く予定だった。)

 

初演のラストが俯くひまわりちゃんで終わっていて、次回作はきっとひまわりちゃんの話が来るぞ~!と思っていたので、しっかり物語の1つのターニングポイントとして描いてくれて嬉しかった。その他のお話のチョイスも、オムニバスでありながら初演以上にテンポ良く流れていくように思った。

 

初めの写真の女性の話は、侑子さんの"願いを叶える"ということへの思想とxxxHOLiCのダークな世界観が伝わってきて、掴みとしてベストチョイスだな~と思った。初日は急に美女の推しが出てきたのでめちゃめちゃ驚いたけど…。笑 曖昧な記憶だけどモデルか女優かな設定だったかと思うんだけど、写真を侑子さんに渡しながら目を逸らす視線や、この写真より嫌なものなんてないわ!って叫ぶシーン、写真に映らないように歩き惑うシーンなんかは、仕事柄なのか"女性的な女性"な彼女の様子が表現されていてすごく良かった。(突き落としてしまった女性が映る写真を消す対価として記録媒体に映ってはいけないという注意を聞いた時の「え?」の声の震えも迫真だった。) 侑子さんがさらりと対価を告げるシーンは何度見ても美しいのにすごく不気味で、震えそうになる。

ステージ後方に下りて来る半透明のフレームのセットも"動く写真"の不思議さと不気味さを演劇らしく表している表現で好きだった。写真は演劇的に表現されているのに対して、この話の終わりに依頼主がこの先何にも映らないなんて不可能だろうということを表わすシーンは映像での表現になっていて、この使い分けが絶妙だな~と思った。あと、ビビってる四月一日が可愛かった。四月一日のバタバタ感は今作も健在で嬉しい。阪本さんの大袈裟だけどわざとらしくなりすぎない生き生きとした表情や動きの匙加減が好き。

 

この導入的なお話のあと、単発のお話の積み重ねで四月一日の意識の変化・ひまわりちゃんの秘密への道筋へ少しずつ繋がっていくのが、1つの舞台の流れとして完成していて素晴らしいな、と思った。(実際、初演未見の友人が何人か観に来てくれたけど、面白かった~!と話してくれた。)

個々の話で特に良かったのは、四月一日と佳朱弥さんの話。佳朱弥さんは原作には無い名前だったので、もしかして原作で自分の一番好きな話かな?と思いつつハッキリは分からなかったのだけど、初日に観劇したらそのお話だったので非常に嬉しかった。

四月一日と佳朱弥さんが出会って、四月一日の素直さが佳朱弥さんの救いになって、佳朱弥さんの包み込むような優しさが四月一日の心の孤独を埋めていくという心の動きが丁寧に繊細に描かれていて、漫画同様に2人が仲を深める様に説得力があったし、優しさがしんみりと胸にしみた。と同時に、結末を知っていたので、それが余計切なさを増幅させて…。佳朱弥役の加納さんは女形のプロなので、四月一日への接し方や話し方がどれも包み込むように暖かくて、両親を早くに亡くしている四月一日に母のような温もりを感じさせるものだったことが見ているだけですごく伝わってきた。途中に時間の経過を表わすように2人が回りながら日々を過ごしていく演出があるのだけど、その時に流れているストリングスとピアノの入った曲がすごく良くて…。(いつもここから泣いてる人になってた) 日々を過ごす中で秋が深まって寒くなっていく空気感も舞台上から客席に伝わってくるのがすごいなぁと思った。それと同時に、2人が回る時に小物の受け渡しをするのが"邪気"のアンサンブルの方で、段々と四月一日に近づく"黒い影"を表わしているのが上手すぎる~…と感動した。ベンチに座る2人の後ろには大きな黒い影があり、そこから四月一日はどんどん体調を崩していくので…。

最終的に百目鬼が佳朱弥さんの正体にうすうす感づいて、四月一日を救うために矢を放つシーンでの彼の反魔のパワーが黒く蠢く邪気に対して白衣装のアンサンブルの方の舞でしっかり差別化されているのも好き。侑子さんにあの人の正体、聞きたい?って聞かれて涙を浮かべながら話しているのが、心が動いている様を見せているようですごく良かった。最終的には彼が選んだことなんだなとしっかり伝えてくれているようで。あとひまわりちゃんが度々四月一日に告げたその人きっと楽しみにしてるよ、喜んでくれるよ、という言葉がすごく力強くて、自分に重ねている部分もあるのかな~と思ったりした。あとこの話の侑子さんの衣裳がめちゃめちゃ好き。髪飾りが素敵。

 

「續」はこのまま小指関連の話を拾ってラストに繋がっていくけど、物語間で箸休め的に座敷童・雨童女猫娘がコミカルに出てきてくれるので嬉しかった。猫娘は本筋でも出番ありそうだけど、あとの2人の出番をどうやって作るんだろうか?と思っていたので、四月一日に会いに行くために特訓!から始まり、やっと会いに行けて、その時に座敷童が「その小指、誰と指切りしたの?」と声を掛けることでただの箸休めではなく、次の話へ繋ぐ役割にもなっているのが良かった。今回の日替わりは座敷童と雨童女の特訓だったけど、毎回恥ずかしがるけど結構強めのボケを入れて来る座敷童と冷静だけど偶に熱くツッコむ雨童女に毎回笑わされた。

男ってのはね…小さいのが好きなのよ!という雨童女の言葉を聞いて、座敷童が小さい、小さい…と呟きながらしゃがんでオギャ!とい言いながら近づいてきてもうカワイイ~~!と雨童女に抱きしめられる回がすごく可愛かった。あと、2週目の終わりで初演よりパワーアップした四月一日のお面が出てきて、、雨童女にお面の表見ると照れちゃうから見ないようにねって言われてるのに、裏返して見てキャ~///って言いながらバタバタしててフリじゃないのよ!て怒られる座敷童も可愛かった笑 雨童女が座敷童のマネして、四月一日を座敷童が演じた時に何で何も言ってくれないの!?→アンタのマネしてるからよ!!→私っていつもこんななの~!?と困惑するのも良かった。笑 猫娘の金魚を座敷童がリリースするのも可愛かったな。

あと猫娘と座敷童のお返しのお返し~も良かったな。妄想が溢れだす座敷童も可愛かったな。混乱。座敷童と雨童女の新しい衣装すごく可愛いよね。雨童女のワンピースが生地に地模様があって高級感があって素敵だった~傘も合わせて白になっているのも良かった。座敷童のワンピースは素朴で可愛い感じにぴったりな生地感だったな。最前列で近くから見ても見劣りしない衣装、素敵。猫娘役の三井さんはへそ出しに適した体型ですごいな…と思ったし、お転婆に動き回る姿が見ていてとても楽しかった。

猫娘は水汲みの話の時に出て来るけど、あの話の風呂敷が飛んでいくシーンで、邪気が風呂敷を受け渡していく演出が寒気と風を両方しっかり感じられるのがすごく好きだった。こういう所が映像ではないのかなり好きだな~と思う。

 

座敷童と四月一日の再会の後、侑子さん、座敷童、雨童女が疼く傷が、という歌を歌うんだけど、3人が無表情と陰のある表情の境目の顔でぽつり、ぽつりと歌っていくという静かなおどろおどろが、後ろで起きている四月一日がひまわりちゃんが叩いた肩から窓に落ちる様子の恐ろしさとリンクしていてゾクッとする場面だった。

ひまわりちゃんと四月一日の対話シーンは、ひまわりちゃんの強がりな話し方がすごく切なかったし、次は死ぬかもしれないよの低く、真剣な声にも胸が苦しくなったけど、それを四月一日が何でもなかったような様子で"次"の話をする様子がすごく暖かった。あの声の作り方も凄く良かったな。ひまわりちゃんはこういう友達からの"普通"の反応が一番欲しかったんだろうな~というのを強く感じた。それを下でずっと待っている百目鬼四月一日のことを大切なんだな~というのが伝わってくる構成だった。(四月一日が寝かされているミセのベッドのセットが原作そのままですごい…!と思った。)

侑子さんが四月一日に語りかけるのもすごく優しい声色で良かったな。キャストさんも言っていたけど、太田さんの侑子さんの語りかけは、まるで客席にも語りかけているような不思議な広がりと説得力があって、すごく良いよね。

そして、ひまわりちゃんのあの歌すごく好きだ~!「あなたの隣 もう歩けない でも繋がっている」というニュアンスの歌詞が切ないけど暖かくてすごく素敵だった。下手の2列目くらいだった時、ひまわりちゃんの「四月一日くんの嘘つき」の泣きの演技が良く見えて、それがすごく良くて…。後ろ向いて捌ける時まで背中が震えてるのがもう…。(初めの頃は赤澤さんがあまりブラウスの肩を落としていなくて見えなかったんだけど、後半の回で背中の傷跡がハッキリ見えて…ひまわりちゃんの覚悟がより伝わるな~と思った。) たんぽぽのシーンも素敵。あのシーンの後に百目鬼が持っててあげたひまわりちゃんの鞄を、四月一日が奪い返そうとして誤って百目鬼の鞄を持っていってしまい、それ俺のだけど…となっているのが微笑ましくて、また日常が戻ってきたんだな、の象徴にもなっていてすごく良かったな。

 

初演のお話って、四月一日が侑子さん達との出会いの中で「貴方の世界は貴方が作るの」の意味を段々と知っていく段階の話だったと思うけど、今回の「續」は、「貴方の選択で貴方の世界が出来る」を実行出来るようになってきた話だな、と思った。自分が危ないと知っても佳朱弥さんへ会いに行く選択、百目鬼の選択を怒りながらも受け入れるという選択、自己犠牲でひまわりちゃんが悲しむことを知ったから彼女の不幸を肩代わりしないという選択、どの話も四月一日の成長を表わす物語としてこれ以上ないセレクトだな~と思った。単に徐々に成長していく過程をピックアップするのではなくて、演目ごとにしっかり「この変化が生まれる」という点を提示してくれるのが好きだな、と思った。

自分に出来る形で周りの人を大切にすることが出来るようになってきた四月一日が、今後の舞台でどのように描かれていくのかすごく楽しみだな~と思う。原作のツバサとのリンク部分をバッサリカットしているので、最終的にどう締めるのかもすごく気になる。エンディング後の侑子さんとの対話も気になるところだし。(Wカテコの後にあの対話を入れるのはすごく挑戦的だな~と思った。怪しくて謎を残す終わり方がこの作品らしくて素敵でした。)

初演のエンディング曲が大好きなので、今回もアレンジで嬉しかった! ラストで桜吹雪が舞う中でキャストが揃うのは圧巻だなぁと思った。ステージセットの完成度もこの時に特に感じたかも。桜吹雪が照明の関係で薄紅にも青にも見えるのがすごく綺麗だし、人間とは摩可不思議なもの~という二面的な部分が感じられる(?)のも、この世界観にぴったりだなと思っている。

 

文中で度々触れたけど、キャストさんたちもインタビューなどで話しているように、本作はかなり演劇らしい演出(プロジェクションマッピングで表現しそうな所を、人の動きを用いて表現する、など)がメインになっていると思う。私は演劇観に来たなら演劇でしか見られない演出が見たいという部分が強いタイプなので、この見せ方はすごく嬉しい。

ただ、松崎さんはそれだけではなく、ここだ!というポイントでは映像も使用するハイブリッドな形になっていて、2つがうまく噛み合って独自の世界観が出来ているのですごい。現代の演劇に使える良いテクニックの良いところですごく上手いなぁと思う。松崎演出の作品たぶん他には観たことないと思うんだけど、機会があれば観てみたいと思う。

あと初演の時も女性役のキャストがより美しく、可愛くなっていくのが素敵だったのだけど、再演は初演を踏まえて一層それぞれのキャラクターの持つ魅力に合った仕草や表情を体現していてとても良かった。誰かがインタビューで、女性のキャラクターを演じるというのは、女性を演じながらキャラクターを演じるという二重性があるのが難しいと話されていたのを覚えているけど、本作はどのキャストの方も"女性"を通って"キャラクター"に繋がる道筋(?)がすごく滑らかだったから見ていて安定感があったな…と思う。

 

冒頭でも述べたけど、現在初日のアーカイブ配信を行っているようなので、ご興味があれば是非。

engeki-xxxholic.com

このシリーズは是非これからも続いていってほしいし、また「續」の再演でも、新作公演でも(気が早い)、ホリ譚の世界に浸れる日が来るのを楽しみに待っている。

*1:原作の漫画は出ている所までは読了済。